ネルヴァル 「祖母」 Nerval « La grand’mère » 詩句の音楽性と記憶の作用

Corot, Souvenir de Mortefontaine

おばあさんが死んで3年。葬儀の時にはみんな悲しんでいた。でも、ぼくは一人だけ、びっくりするばかりで、みんなと同じ反応が示せなかった。

三年後の今、おばあさんの記憶はみんなの中で色あせている。
しかし、ぼくの中では、記憶が深く刻み込まれ続けている。


このように語る「祖母」という小オードは、ネルヴァルの記憶作業がどのようなものか、わかりやすく伝えている。
と同時に、ネルヴァルが詩の音楽性を重視していたことも教えてくれる。

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ネルヴァル 「黄金詩篇」  ピタゴラスと共に Nerval, « Vers dorés », avec Pythagore

ネルヴァルの「黄金詩篇」は、エピグラフにピタゴラスの詩句とされる言葉を挙げ、ピタゴラス教団の教えを唱えるお題目のような雰囲気を持っている。

ピタゴラスという名前を聞くと、ピタゴラスの定理を思いだし、数学者だと思うかもしれない。三角形の底辺の2乗は、他の2辺の2乗の和に等しいという、誰もが知る定理。

しかし、ピタゴラスは、万物は全て数で成り立つと唱えた古代ギリシアの哲学者で、秘儀的な宗教教団の中心人物でもあった。その教団は、ピタゴラス派と呼ばれる。
「黄金詩篇」はその教団の信条を詩句にしたもの。

ネルヴァルは、最初にこの詩を発表した時、「古代の思想(« Pensée antique »)」という題名を与えていた。この「古代」は「近代」と対立し、人間の思考の二つの型を連想させる。一方は合理的思考。もう一方は理性的理解を超えた思考。

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ネルヴァル 「ファンテジー」 Nerval « Fantaisie » 音楽と絵画とデジャ・ヴュと

ネルヴァルの「ファンテジー」は、音楽性と絵画性が絶妙に組み合わされ、ロマン主義的な美が見事に表現されている。

詩句は音楽性に富み、朗読すると口にも耳にも心地よい。

喚起される情景は、古きフランスの光景であり、「詩は絵画のように、絵画は詩のように」(Ut pictura poiesis)というホラティウスの言葉を実現している。
それと同時に、一つのメロディーから過去の光景が一気に描き出される様は、プルーストのマドレーヌと同じように、記憶のメカニスムが作り出す魅力を感じさせてくれる。

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ネルヴァルの名刺(裏面) 「アルテミス」  Gérard de Nerval « Artémis »

アレクサンドル・デュマに渡した名刺の裏面に書き付けられた「アルテミス」では、オルフェウスによって暗示された神秘に関する、ネルヴァル的開示がなされる。
(名刺の表面に書かれた「エル・デスディチャド」を参照)
https://bohemegalante.com/2019/05/12/el-desdichado-carte-de-visite-nerval-endroit/

Apollon et Artémis

アルテミスは、ローマ神話ではダイアナと同一視され、狩りと月の処女神であるが、ギリシア神話の中では、ゼウスとレートーと間に生まれた子どもで、アポロンの双生児とされている。

名刺の表側の「私」がフェビュス(アポロン)であるならば、裏面にアルテミスの名前があることに驚きはない。

しかし、詩の内容は、ギリシア・ローマ神話とはかなり異質であり、謎めいている。「アルテミス」では、オルフェウス的詩人の神秘に関して、なぞなぞのようなゲーム感覚で詩句が展開する。

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ネルヴァルの名刺(表面) 「エル・デスディチャド(不幸者)」  Gérard de Nerval « El Desdichado »

ジェラール・ド・ネルヴァルの「エル・デスディチャド(不幸者)」と題されたソネットを最初に公にしたのは、アレクサンドル・デュマだった。
彼は、1853年12月10日付けの「銃士」という新聞の中で、ネルヴァルに関してかなり茶化した紹介文を書いた。

数ヶ月前から精神病院に入っている詩人は、魅力的で立派な男だが、仕事が忙しくなると、想像力が活発に働き過ぎ、理性を追い出してしまう。麻薬を飲んでワープした人たちと同じように、頭の中が夢と幻覚で一杯になり、アラビアンナイトのような空想的で荒唐無稽な物語を語り出す。そして、物語の主人公たちと次々に一体化し、ある時は自分を狂人だと思い、別の時には幻想的な国の案内人だと思い込んだりする。メランコリーがミューズとなり、心を引き裂く詩を綴ることもある。

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