ステイシー・ケント Stacey Kent 和らぎの声のジャズ・シンガー

ステイシー・ケント(Stacey Kent)は、ジャズ・ファン以外にはあまり知られていない歌手かもしれない。ニュージャージー州に生まれ、ロンドンで本格的に活動を始めてからは、英語、フランス語、ポルトガル語を駆使して歌い、ジャズのみならず、ポップスやボサノヴァなどジャンルを超えた活動を展開している。日本出身のノーベル賞作家カズオ・イシグロのお気に入りの歌手としても知られ、彼が作詞を手がけた楽曲もある。

幸いなことに、YouTubeにはステイシー・ケント自身の公式チャンネルがあり、彼女の楽曲を自由に楽しむことができる。
ここではまず、フランス語のアルバムRaconte-moiから« Le Jardin d’hiver »を聴きながら、彼女の歌声に耳を傾けてみよう。画面にはフランス語の字幕も表示される。

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ジャズの楽しさ 上原ひとみ Hitomi

ジャズはインプロヴィゼーション(即興)の音楽で、楽譜があったとしても、その時その場の雰囲気の中でインスピレーションが湧きだし、自由な演奏が繰り出される。

ジャズ・ピアニスト上原ひとみが、そんなジャズの本質を見せている場面がyoutubeにアップされている。
すでに1度紹介したことがあるのだが、少し別の映像を付け加えて、もう1度紹介したい。(ジャズの楽しさ インプロヴィゼーションとリズム感

彼女は最初の演奏にあまり満足できなかったらしく、同じ曲をもう1度弾き直す。そんな時、彼女の身体の中から音楽が流れ出している、といった感じがする。
その後、今まで一度も弾いたことがない曲「マイ・ウエイ」をたどたどしく弾き始めるのだが、途中から見事なインスピレーションへと進んでいく。

それからもう一つ。上原ひとみがピアノを弾く時はいつでも楽しそうだ。本当に心の底から演奏を楽しんでいる様子が感じられる。
ジャズの楽しさはこれだ! 彼女の演奏を聴いて思わずそう言いたくなる。

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癒やし 大江健三郎 大江光の音楽 村上春樹

ある時期から日本で「癒やし」という言葉が爆発的に使われるようになった。
しかし、その言葉があまりにも一般化したために、いつ頃から、誰の影響で、これほど普及したのか、きっかけが忘れられているように思われる。

私の個人的な経験では、「癒やし」という言葉は、大江健三郎が1980年代に発表した作品群、とりわけ『「雨の木(レイン・ツリー)」を聴く女たち』や『新しい人よ眼ざめよ』などの中で集中的に用いたのように記憶している。
それらの作品群の中心にいる存在は、光(ひかる)と呼ばれる障害を持つ子供。大江自身の子供がモデルになっている。

1994年に大江がノーベル賞を受賞した際の講演「あいまいな日本の私」で、「光の作品は、わが国で同じ時代を生きる聴き手たちを癒し、恢復させもする音楽」と述べたことから、一般のメディアでも「癒やし」という言葉が広く流通するようになったのではないかと思われる。(「癒やし」と「癒し」、どちらの表記も使われる。)

大江光の音楽は、今ではあまり聞かれなくなってしまったが、聴く者の胸の奥まで届く、優しい響きを持っている。

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Who can I turn to (when nobody needs me) 誰に頼れば?

« Who can I turn to (When nobody needs me) »は題名の通り、誰にも言えない気持ちを、愛する人に語るようでいて、実は自分にこっそりと語りかけている曲。
悲しいけれど、しっとりとし、美しい。

Tony Bennettの歌声を聴きながら歌詞を見てみよう。英語がやさしく聞こえる。(二重の意味で。)

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トニー・ベネット Tony Bennett

2023年7月21日にトニー・ベネット(1926-2023)が亡くなったというニュースが、様々なメディアで報じされていた。享年96歳。
彼は長いキャリアの中で数多くの賞を受賞し、数年前まで現役だったので、代表作を数え上げればキリがない。

そんな中で、ジャズ・ファンとしては、やはりビル・エヴァンスと共演した2枚のアルバムをつい聴きたくなる。
幸い、youtubeには、complete recordingsがアップされているので、二人の素晴らしい演奏を全て聴くことができる。

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メロディ・ガルド パリでの活動

アメリカのジャズ歌手メロディ・ガルドが、コロナ禍の間パリに住み、録音やコンサートをしたことを紹介したニュース。

Melody Gardot, la voix envoûtante

Intemporelle, sa voix, son swing, le décor et jusqu’à sa silhouette glamour, Melody Gardot poursuit son récit jazzy.

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ルビー・ブラフ Ruby Braff 気持ちよくスイングするトランペット

ルビー・ブラフ(Ruby Braff)は1927年生まれのジャズ・トランペッターで、1940年代後半から音楽活動を始め、2003年に亡くなった。

彼がギタリストのジョージ・バーンズ(George Barnes)と組んで録音したロジャース・アンド・ハートの楽曲集 ‘ Salutes Rodgers and Hart ‘ に収められた演奏は、とても気持ちが良い。
その中の一曲 ‘Mountain Greenery’を聴くだけで、ルビー・ブラフのトランペットの心地よさを感じることができる。

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What is this thing called Love? 恋とは何でしょう

What is this thing called Love ?(Loveって呼ばれてる、これって何?)は、1929年、ミュージカル『ウェイク・アップ・アンド・ドリーム』のためにコール・ポーターによって作曲された曲。
1929年は昭和4年。それから90年以上経った今でも、ジャズのスタンダードとして演奏され続けている。

メロディ・ガルドーが2021年に出したSunset in the Blueのデラックス・エディションに収められたWhat is this thing called Love。原曲の雰囲気を保ちながら、しかし 現代の曲になっている。

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Everything happens to me エヴリシング・ハプンズ・トゥ・ミー

Everything happens to meを日本語にしたら、「ぼくには嫌なことしか起こらない」といった感じだろうか。
道を歩いていたら黒猫を見るところから始まり、ゴルフの予定を入れると雨が降る。パーティをすると上の階の人から文句を言われる。風邪をひいたり、電車に乗り遅れたり、等々。愛する人に電話をし、電報を送ると、彼女から来たのは別れの手紙。しかも着払い!
Everythingというのは、そんな悪いことばかり。

ウディ・アレンの「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」では、生まれ育った街ニューヨークが住みにくくて田舎の大学に行った主人公ギャツビー(ティモシー・シャラメ)が、週末にニューヨークに戻り、元カノの妹で、とても感じの悪いチャン(セレナ・ゴメス)の家に行き、そこにあったピアノで弾き語りする場面で、Everything happens to meが使われている。
ティモシー・シャラメは、歌の上手な素人っぽさをよく出してる。

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