対コロナウィルス 他動詞的国民性と自動詞的国民性

3月16日、フランスの大統領エマニュエル・マクロンが、国民に向けてテレビ演説を行い、外出禁止を含む様々な措置を打ち出した。

この演説の中で、マクロンは何度も、「私たちは戦争状態にある。」という言葉を使っている。
これは、コロナウィルスを敵に見立て、その敵に対して戦うという姿勢に基づいた表現だと言える。

日本では、この表現はかなり違和感があり、多くの新聞では、マクロンの演説を報道するとき、「戦争状態」という言葉をカッコ付きにして、強調している。

フランスと日本における表現の違い、そして物事に取り組む際の姿勢の違いは、他動詞表現を基本とするフランス語と、自動詞表現を好む日本語の違いと対応しているのではないだろうか。

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ミスティ Misty

しっとりとした気分でジャズを聴きたい時ピッタリなのが、「ミスティ(Misty)」。
ピアニストのエロル・ガーナーが1954年に作曲した曲。ニューヨークからシカゴに移動中の飛行機から霧を眺めている時に、ふと思いついたメロディだという。その曲を聴いた友だちが、霧のようにぼんやりしているという感想を抱いたところから、Mistyという題名が付けられた。

その後、1959年に、ジョニー・マティスが歌詞を付けて歌い、ジャズのスタンダートとなった。

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紅の豚 大人を主人公とした、大人のためのアニメ

「紅の豚」の主人公は、豚の顔をした中年のパイロット。格好良くもないし、英雄でもない。何か特別なことを成し遂げるわけでもない。

そんな作品に関して、宮崎駿監督は、「紅の豚」の演出覚書の中で、「疲れて脳細胞が豆腐になった中年男のための、マンガ映画であることを忘れてはならない。」と書いている。

また、「モラトリアム的要素の強い作品」という言葉を使い、大きな流れから一旦身を引き、執行猶予あるいは一時停止の状態にいる人間の状況がテーマであることを暗示する。

そのような状況設定に基づき、「紅の豚」は私たちに、宮崎監督の考える「大人」、そして「人間が個人として生きることの意義」を明かしてくれる。

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イヴ・ボンヌフォワ 「雨蛙 夕方」 Yves Bonnefoy « Les Rainettes, le soir » 俳句的?

イヴ・ボンヌフォワ(1923-2016)は、現代フランス最高の詩人。
フィリップ ・ジャコテ(1925- )とともに、俳句を高く評価し、俳句の精神をフランス詩の中に取り入れた詩人でもある。

幸い、ボンヌフォワが松山市で俳句について行った講演記録の日本語訳を、ネット上で読むことが出来る。
http://haikusphere.sakura.ne.jp/tra/2000/bonnefoy%20lecture-j.html

詩集『曲がる板(Les Planches courbes)』の冒頭に置かれた「雨蛙、夕方(Les rainettes, le soir)」は、芭蕉の古池に飛び込む蛙たちの声をフランスの詩人が耳で捉えた証なのかもしれない。

第一詩節は雨蛙たちの声から始まる。

I

Rauques étaient les voix
Des rainettes le soir,
Là où l’eau du bassin, coulant sans bruit,
Brillait dans l’herbe.

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コロナウィルスについて

コロナウィルスが猛威を振るっているが、それ以上に人の心を占領しているのは、コロナウィルスについての情報の氾濫。
Gérald Bronnerが、社会学的な視点からこの現象を分析している。
フランス語を理解できる人には、ぜひこのインタビューを聞いてほしい。

https://www.tf1.fr/tmc/quotidien-avec-yann-barthes/videos/invite-on-decrypte-la-peur-autour-du-coronavirus-avec-le-sociologue-gerald-bronner-55355230.html

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音から入るフランス語学習 フランス語を聞こう

youtubeには、フランス語の短いフレーズの音声を、日本語と合わせて流しているサイトがいくつかある。
フランス語と日本語の対応に問題のあるものもあるが、フランス語のフレーズを一連の音として聞くためには役に立つ。

フランス語睡眠学習(8時間!)

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メンデルスゾーン、ショパンの「舟歌」とヴェルレーヌのこの上なく美しい詩

ヴェルレーヌが1874年に出版した詩集『言葉なき恋愛(Romances sans paroles)』は、メンデルスゾーンのピアノ曲集『言葉なき恋愛(Lieder ohne Worte)』に由来すると言われている。

メンデルスゾーンのピアノ曲集には、「ベニスのゴンドラ乗りの歌」と題された曲が3つ入っている。
同じように、ベルレーヌの詩集にも舟歌がある。
「クリメーヌに」。
「神秘的な舟歌(Mystiques barcarolles)」という詩句で始められる。

作曲家と詩人を繋ぐものとして、もう一つの舟歌があるかもしれない。
それが、ショパン晩年の曲「舟歌」。フランス語の曲名は、Barcarolle。
ヴェルレーヌが、« Mystiques barcarolles »綴ったとき、メンデルスゾーンだけではなく、ショパンの曲も心に思い描き、二人の舟歌が詩人の内部で鳴り響いていただろう。

そうして出来上がった詩「クリメーヌに」は、ヴェルレーヌの中でも、最も美しい。

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