ランボー 「酔いどれ船」 Rimbaud « Le Bateau ivre » その5 言葉で遊ぶ

幸福感

難破は悲劇だけれど、しかし、束縛から逃れ、自由になることでもある。疲れ果てることもあるが、美と遭遇し、癒やしを感じることもある。
第15詩節では、ランボーの筆から、肯定的な雰囲気を持つ言葉が数多く繰り出される。

J’aurais voulu montrer aux enfants ces dorades
Du flot bleu, ces poissons d’or, ces poissons chantants.
Des écumes de fleurs ont bercé mes dérades
Et d’ineffables vents m’ont ailé par instants.

ぼくは子ども達に見せてやりたかった。青い波の鯉や、
黄金の魚や、歌を歌う魚を。
花々の泡が、ぼくの漂流を揺り籠のように揺すった。
心地よい風が、時々、ぼくに翼をつけてくれた。

ランボーは、現実に存在しないものを言葉で生み出し、さらには存在しない言葉まで作り出す。

できることなら子どもたちに見せたかったという3種類の魚は、青い波で出来ていたり、歌ったりする。金の魚も、黄金でできた魚となれば、実在しない。
現実の対応物を探すよりも、言葉が読者の想像力を動かし、自由なイメージを作りあげるように要請する詩句である。

青い波の鯉に関しては、青い波(flot bleu)が、1行目では収まらず2行目にとばされ、鯉(dorades)という単語と切り離されることで、強調されている。ルジェ(rejet)と呼ばれる詩の技法。
さらに、doradeの[ 0 ]がflotにつながり、orと黄金になる。母音 [ o ]の反復(アソナンス)によって、最初の2行は金色に染められる。

次の2行では、新語が作り出される。
dérade
ailer

フランス語の単語も、漢字と同じように、核になる部分の組み合わせで出来ている。
例えば、峠という漢字は、山、上、下の組み合わせ。核になる部分の理解ができれば、意味の推測は付く。

déradeは、dérader(停泊地を離れる)という動詞に由来する。
なぜこんな新語を造ったかと言えば、鯉を意味するdoradeと韻を踏み、しかも、dの音も共通する。dorade – déradeという音の言葉遊び。

ailerは、aile(翼)という名詞を動詞にした言葉。フランス語を解する読者にはすぐに推測がつく。

この二つの新語の周りには、花の泡、揺り籠で揺する、言葉で言い表せないほど心地よい風という、美しく気持ちのいい言葉が繋げられ、幸福感を醸成している。

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