日本における自然観と美意識 もののあわれ

物:自然と人間 

「物」=全ての起源

稲穂(葦牙)の突き出す勢いは生命の象徴でもあり、その生命は稲の生長から収穫へと続き、翌年にはまた同じサイクルが繰り返される。
このように、稲作は、一年を周期とする季節の変化に基づき行われる。
そのことは、季節に対する日本的な感性と無関係ではないだろう。

ここで、四季の変化の中で生きる人間と自然の関係について考えてみよう。

葦牙が生成するとき、『古事記』では、「葦の芽のように萌え上がってできたにより神が現れ(如葦牙因萌騰之)」と記されている。
『日本書紀』でも同様に、「天地の中に一つのが生まれた。 葦の芽に似ていた(于時、天地之中生一。狀如葦牙) 」とある。

最初に生成するものは、記紀ともに、「物」である。

その「物」は、全ての生成物の起源となり、神であり、自然でもあり、人間にもなる。
『古事記』では、人間を「うつしき青人草」と呼ぶこともある。
全ての「物」には霊が宿り、崇拝の対象になれば神となり、恐れの対象となれば悪霊、鬼となり、眺める対象として自然が一方に立ち上がり、それを眺める側に立てば人間になる。

このような考えに従うと、人間と植物は同じ「物」であり、心を分かち合っていることも驚くにはあたらない。
柿本人麻呂は、山に雲がかかるように、自分の心をそっと隠しているが、しかし、木の葉はその心を知っていると歌う。

天雲の たなびく山の 隠りたる 我が下心 木の葉知るらむ
                         (『万葉集』)

和歌の歌人たちが、草や木、月や動物の声に心を託して歌うのは、「物」を全ての生命の始まりとする日本的な世界観に基づいていると考えても、間違ってはいないだろう。

人間と自然の分離

全てが「物」の変容だとしても、しかし、視点を変えれば、同一の存在ではない。

稲作を考えた場合、農作業は一年の周期の中で、季節に従って進められる。春の後には夏が来て、秋になる。そして冬がくれば、一年が終わる。
季節は次々に移り変わっていく。
と同時に、次の年になれば、季節は巡り、春はまた戻ってくる。
自然は、一方で時間とともに進行しながら、他方では永遠に回帰するという、二つの側面を持っているのである。

それに対して、人間の生は、子どもから老年への向かい、その流れは一方にしか向かわず、回帰することはない。人間にとって、時は無情に流れていく。

7世紀の唐の詩人、劉廷芝(りゅうきい)は、人間と自然の違いを次の詩句で見事に表現した。

年年歳歳 花相似たり
歳歳年年 人同じからず   (「代悲白頭翁」)

毎年毎年、花は同じように咲き、自然は変化しない。それに対して、人はこの世を去り、顔ぶれは毎年変化する。
そのように歌うとき、劉廷芝は、自然の中でも永劫回帰の側面にスポットライトを当て、時間の中に生きる人間の生の儚さを際立たせたのである。

同じ唐の詩人、杜甫の「国破れて山河在り 城春にして草木深し」という詩句からも、永遠の自然と儚い人間の生の対象が浮かび上がってくる。
人間の作り出した長安の都は、戦さで破壊される。他方で、自然の山や河は昔のままであり、春になると城内には草木が深く生い茂る。それだからこそますます、人間の不在が強く感じられる。

日本でも、『万葉集』の中で、人間と自然を異なった存在として歌う歌がある。

高山と 海とこそば 山ながら かくも現(うつし)く 海ながら しか真(まこと)ならめ 人は花物ぞ うつせみ世人

高山は山として現実にあり、海は海として真実として存在する。しかし、人は花であり、人生は儚い。
この歌の中で、現(うつし)や真(まこと)と空蝉(うつせみ)という二つの相が区別される。山や海といった自然は永遠 の存在、実物(さねもの)として捉えられる。他方、人間は花のように儚く散る存在と見做されている。

ここで注目したいのは、「人は花ぞ(人者花曽)」という表現である。
人は花と言われるだけではなく、「物」という規定がなされる。
つまり、人間はまず「物」という実物であり、その上で、花という属性が示されているのである。
そのことは、全てが「物」であることの証しといえる。

従って、「高山と海とこそば」の歌は、「物」の世界を前提とし、一方には「実物」としての自然が現れ、他方には「空蝉」としての人間が分岐するという、二元的な思考に基づいていることになる。

日本における自然観と美意識 もののあわれ」への3件のフィードバック

  1. Angelilie 2019-10-28 / 01:15

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      いいね: 1人

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