ボードレール 「旅」 Baudelaire « Le Voyage » 新しい詩への旅立ち その3

第3部には、驚くべき旅行者と私たちという二つの系列の旅行者が現れる。その区別は、すでに旅をした人々と、これから旅を志す人間(私たち)の違いである。

III

Etonnants voyageurs ! quelles nobles histoires
Nous lisons dans vos yeux profonds comme les mers !
Montrez-nous les écrins de vos riches mémoires,
Ces bijoux merveilleux, faits d’astres et d’éthers.

驚くべき旅人たちよ! どんなに高貴な物語を、
私たちは君たちの目の中に読み取ることだろう。海のように深い目の中に!
見せてくれ、君たちの豊かな記憶の宝石箱を、
星と天空のエーテルでできた、素晴らしい宝石を。

驚くべき旅人たちの物語を私たちは読む。
彼らの海のように深い目は、海という無限を思わせる時空間を旅してきたことを暗示している。
そして彼等が見せるものは、現実の姿ではなく、思い出の小箱。
思い出は、体験している時には現実と考えられたものが、主体の中に取り込まれ、イメージとなったものだ。客観的に捉えられたものでも、完全な主観でもなく、それぞれの人々の気質(tempérament)に応じて調合されたもの。
驚くべき旅人たちの宝石は、星と空中を満たす液体(エーテル)で作られている。

Nous voulons voyager sans vapeur et sans voile !
Faites, pour égayer l’ennui de nos prisons,
Passer sur nos esprits, tendus comme une toile,
Vos souvenirs avec leurs cadres d’horizons.

旅がしたい。蒸気も、帆もない旅!
監獄での退屈を紛らわすため、
スクリーンのように張られた私たちの精神の上に、
君たちの思い出を映してくれ、水平線を額縁にして。

驚くべき旅人たちの物語を読み、旅をしたいと願う私たち。しかし、蒸気船も帆船も望まない。では、そのような旅を夢見ているのか?

Turner, Snow Storm: Steam-Boat off a Harbour’s Mouth

詩句では明確に現されないが、現実の時空間の中でも旅ではなく、頭の中の空想の旅だろう。
現実は退屈であり、大きな海でさえ「有限」。それに対して、私たちは「無限」の存在。
第1部の第2詩節ですでに示されたこの認識からすれば、真実の旅は、私たちの内部にある無限へ向かうものとなる。

だからこそ、驚くべき旅人たちの物語から読み取るのは、彼等の思い出なのだ。その映像が、私たちの精神というスクリーンの上に映し出されていく。

その時、詩人は彼らに問いかける。

Dites, qu’avez-vous vu ?

言ってくれ。君たちは何を見たんだ?

第3詩節は、一行の詩句の半分しかなく、後半の半分は、次の詩節、しかも第4部へと送られている。そうした詩法によって、「何を見たのか」という問いが、強く印象付けらることになる。

この後、「旅」は、第4部の7つの詩節と、第6部の6つの詩節で、驚くべき旅人たちが見たものが、綴られていく。

葛飾北斎、神奈川沖浪裏

ボードレールの「旅」を、アルチュール・ランボーは読んだに違いない。
彼の「酔いどれ船」でも、航海の中で見たとされるヴィジョンが語られている。
https://bohemegalante.com/2019/07/19/rimbaud-le-bateau-ivre-3/

ランボーは、1871年5月、ポール・デメニーに宛てた手紙(いわゆる「見者の手紙」の一通)の中で、ボードレールこそ第一の見者、詩人の王であり、真の神とまで言いながら、彼の詩の形式はつまらないものとし、「未知なるものを作り出すためには新しい形式が必要だ」と主張した。
「酔いどれ船」は、「旅」に基づきながら、新しい形式を模索した詩といえるだろう。

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