アメリ Le destin fabuleux d’Amélie Poulain 開く心

「アメリ(原題:アメリ・プランの不思議な運命)」は、主演のオドレイ・トトゥの独特な表現や彼女を取り囲む小物、赤と緑を基調とした色彩、パリを感じさせる街並み等のために、2001年の公開以来、現在でも人気がある。

物語は、アメリの恋物語を縦糸にし、彼女のかかわる人々の人間模様が横糸になる。

心を閉ざしたアメリは、ある事件をきっかけに人と関わり始める。それと同時に、インスタント写真を貼ったアルバムの謎を通して、ニノとの恋物語が語られる。
そうした展開の中で、閉ざされた心が外に開かれいていく過程が描き出され、多くの観客の共感を呼ぶことになった。

ジャン=ピエール・ジュネの映像表現は、デビュー作の「デリカテッセン」から一貫している。ただし、「デリカテッセン」は核戦争後に生き残った肉屋を中心にしているために、色彩は暗い。

それに対して、「アメリ」は、内気な少女が気持ちを外に向けていく過程を描いているため、赤と緑を中心に、比較的明るい色使いがなされている。

アメリが心を閉ざすようになったのは、両親から愛されないことが原因。
医者の父親に診察してもらったとき、胸が高鳴りすぎて、病気と診断されたエピソードは、思いが伝わらない子どもの気持ちを軽妙に描いている。

彼女が心を落ち着かせたい時には、サン・マルタン運河で石切をしたり、
https://bohemegalante.com/2019/03/24/canal-saint-martin/
ポケットの中の小石を触ったり、食品店のビーンズに手を突っ込んだりする。
そんな風に、外の世界と閉じた繋がりしか持つことができない。

アメリ以外の人々も、みんな、自己の内部に籠もっている。自分の話はするが、人の話に関心はなく、聞き流すだけ。

そんな中で、彼女が変わるきっかけになるエピソードがある。
アメリは、ダイアナ妃の死のニュースをテレビで見ている時、壁の中に隠されていた小箱を見つけ、持ち主であるブルトドーを探す。
小箱はアメリの心の状態を表し、壁の中から外に出す行為は、心が外に開かれる象徴。
ブルトドーは娘と疎遠だったが、子ども時代の宝物が入った小箱をきっかけに、娘と再会を果たす。

アメリの父は、庭に置いた人形に関心を示すばかりで、アメリが何を言っても無関心のまま。

しかし、ある時から、アメリも、自分がずっと愛されてきた存在であることを知る。

彼女に心を注ぎ続けてきたのは、アパートの部屋に籠もり、20年間、ルノワールの「船遊びをする人々の昼食」を模写し続けている老人。
彼が同じ絵画を描き続けているのは、絵の中の一人の少女のため。
その少女に対する関心は、アメリに注がれる父親的な愛。
愛されたいのに愛されないため心を閉ざしてきたアメリは、ガラス男と呼ばれるこの老人から、愛される実感を感じる。

アメリがニノと結ばれた後、老人は「船遊びをする人々の昼食」とは別の絵を模写し始める。それは、アメリが父性的な愛を望むことから解放された暗示だろう。

ニノとの恋愛は、謎の写真アルバムを軸に展開する。
ニノは、電車の駅に置かれた証明写真機の下に、破って投げ捨てられた写真を収集し、アルバムに貼ることを趣味にしている。
アメリは、アルバムを拾い、それらの写真が死者からのメッセージではないかと、勝手に謎の意味を考えなら、持ち主であるニノを探し求める。

謎の意味を求めている間、アメリは臆病で、なかなかニノに直接接することができない。

彼女が働くモンマルトルのカフェにニノが来た時も、ガラスの後ろから彼を眺めることしかできない。

次にできることは、怪傑ゾロに変装した自分の写真を送ること。

その後になると、モンマルトルの丘にニノ呼び出すが、電話を使い、丘の上にニノを向かわせ、自分は下にいる。

アパートの管理人の女性や、コリニョンの八百屋で働くリュシアンのためには、大胆な行動ができたアメリも、自分の恋愛のことになると考えすぎ、ガラス越し、写真、電話など、ニノと直接コミュニケーションできないままでいる。

最後の一歩を踏み出す決心するのは、写真の謎が解決した時。
写真は死者からのメッセージではなく、証明写真の機械を修理する人が、修理後に試し撮りをし、自分の写真を破いて捨てたものだった。
物事は単純であり、考えすぎる必要はないのだ。
そのことがわかった時、アメリは、自分の愛を実現するための最後の一歩を踏み出すことできる。

ニノのバイクに乗って、パリの街を疾走するラスト・シーンでは、二人の間に媒介はなくなり、直接的に繋がっている。

愛されたいけれど愛されないために、空想の世界に閉じこもるようになったアメリ。
空想の世界では、単純なことでも謎にしてしまい、心の葛藤が生まれ、人とのつながりがますます複雑になる。
アメリは、壁から箱を取りだし、写真アルバムに何も謎がないことを知ることで、心を外に開くことができる。

そうした心の動きは、現代社会に生きる人間の心模様を巧みに表現しているといえ、2020年の今でも、人気のある映画であり続けている。

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