ジェラール・ド・ネルヴァル 「10月の夜」ユーモアと皮肉 Gérard de Nerval « Les Nuits d’Octobre » humour et ironie 4/5

「10月の夜」の第4回目の記事。
「イリュストラシオン」誌の1852年11月6日に掲載された。

語り手は、場末のパリを離れ、郊外の町モー(Meaux)に向かう。そして、その夜、奇妙な出し物を見たおかげで、とても変な夢を見る。
回廊を歩き回ったり、モーの市長が出てきたり、ドイツ風の土の精霊達が彼の頭蓋骨をハンマーで叩いて、分解したり・・・。つじつまが合わない夢が続く。
翌朝5時に目を覚まし、ホテルを出て、マルヌ川沿いの景色を眺めながら、前夜のことを考えたりする。

「10月の夜」は、レアリスムを標榜し、目に入るものをそのまま描くだけで、結末のある物語を語らないというのが、最初の原則だった。
ネルヴァルは、ユーモアと皮肉を込めながら、その実践をしていく。

夢はもともと脈絡がなく、何が起こってもいいし、意味がわからない。
実は、現実も本来は夢と同じようにただ出来事が続いていくだけなのだが、私たちは無意識のうちに脈絡や整合性を作り挙げて、何となく理解している。
ネルヴァルの実験は、そうした現実や夢を、あるがままに記述していくことにあった。
従って、読んでいて、何を意味しているのかわからなくなることがある。しかし、それがネルヴァルの「10月の夜」における戦略。
読者は、彼の言葉遊びやユーモアを持った語りに、にやっと笑ったり、多少困惑しながら、ついていくしかない。

16.モー 

「ほら、ほら、地獄から帰還する者だ!」

ぼくはこの詩句を自分自身に当てはめていた。ストラスブール行きの電車に乗っている時だった。―― そして、自慢だった・・・。というのも、まだ一番深い‘悪所’までは入り込んでいなかったからだ。結局のところ、ぼくが出会ったのは、正直な労働者たち、―― 酒に酔っ払った哀れな奴ら、家のない不幸な人たち・・・。そこはまだ最後の深淵ではない。

朝の新鮮な空気、緑の草原の光景、マルヌ川沿いの気持ちのいい河辺、右にはパンタン ――本当のパンタン―― が最初に見えてくる。左手に見えるのはシェル、次に見えるのはラニー、長く続くポプラ並木。風を防ぐ柵を施された小丘が、シャンパーニュ地方に向かって伸びている。見えるもの全てがぼくをうっとりさせてくれたおかげで、ぼくは落ち着いて考えられるようになっていた。

運が悪いことに、大きな黒い雲が向こうの方に出てきた。モーで汽車を降りたときには、土砂降りだった。カフェに避難すると、大きくて真っ赤なポスターが目に入ってきた。そこにはこんな風に書かれている。

(モーの)市長閣下のご許可による
    「驚くべき奇跡」
自然が見せる最も奇妙なもの:
    「一人のとても可愛い女性」
髪は美しい
     「メリノの房」
栗色

モンタルド氏がこの町にいらっしゃり、皆様にお目にかけるのは、本当に稀なもの。常識を遙かに超えた怪物。パリやモンペリエの医学博士たちでさえ、まだ定義するにいたっていない。

「その怪物」とは、

18歳の若い娘。生まれはヴェニスで、髪の代わりにバルバリ産のメリノ羊毛でできた素晴らしい房が生えている。色は栗色。長さは約52センチ。見た目は植物のよう。頭の上に14本から15本の枝がにょきにょき生えているように見える。
枝のうちの2本は額の上に突き出し、角の形をしている。
今年のうちに、ふさふさとした毛の束から、毛糸の塊が抜け落ちるはず。適切な時期に刈られなかった羊の毛と同じこと。
その女性はとても魅力的で、目は表情に富んでいる。肌は真っ白。多くの町で賞賛の的となってきた。1846年にロンドンに滞在した折には、女王閣下に拝謁を許された。その時も、女王はいたく驚かれ、自然がこれほど奇妙な姿で現れたことはないとおっしゃられたほどだった。
ご覧下さる方々は、手に触れて、真実をお確かめいただけます。弾力や香りをご自身でお試しください。云々、云々。
今月の5日の日曜日まで、毎日ご覧いただけます。
オペラの楽曲が、素晴らしい演者によって演奏されます。
スペインやイタリア風のダンスも、年金を受給されている舞踏家たちによって踊られます。

入場料:25サンチーム。―― 子ども、軍人:10サンチーム

(原注:ここに書かれたことは全て真実であり、筆者はこのポスターを「イリュストラシオン」誌の事務所に預けてきたので、今でもそれを見ることができる。)

別の出し物がなかったので、ぼくは自分自身でこのポスターの奇跡を確かめようと思った。上演が終わって劇場を出たのは、夜の12時過ぎだった。

今ここで、夜会の後で見た夢がもたらした奇妙な感覚を分析する勇気はない。―― 頭がとても興奮している。昨夜のことがいろいろ浮かんでくるし、ホテルに戻るときに通ったアルシェ橋の眺めも少しは関係している。そのせいで、夢を見た。その中身をとてもよく覚えている。

17.ガラクタ置き場

回廊 ―― 終わりのない回廊! 階段 ―― 上ったり、下りたり、また上ったりする階段。一番下はずっと黒い水に浸かっている。黒い水は水車で波立ち、巨大なアーチの下にある・・・。そこを、ごちゃごちゃした橋桁の骨組みが横切っている! 上ること、下ること、回廊を隅から隅まで歩くこと。 ―― 幾つもの永遠の間に・・・。こうしたことは、自分が犯した罪のせいで、ぼくが受けないといけない刑罰なのだろうか。

生きている方がいい!!!

でもその逆だ。 ―― 誰かがぼくの頭をハンマーで思い切り殴っている。どういう意味だろう。

「ぼくはビリアードのキューを夢見ていた・・・。’ヴェルジュ(まだ緑のブドウで作ったワイン)’の入った小さなコップも・・・。」

「市長ご夫妻はご満足でいらっしゃいますか。」

そうか!ぼくはビルボケとマケールを混同しているんだ。でもそれだからと言って、頭を棒で殴られていいわけじゃない。

「燃やすのは、返事をすることではない!」

角の生えた女に口づけしたからとか、指を彼女のメリノ羊毛でできた髪に這わせたからだろうか?

「何だろう、こんな皮肉は!」とマケールなら言うところだろう。

しかし、デカルト主義者であるデバローなら、神の摂理にこう応えるだろう。

「こんな大騒ぎは・・・のせいだ。」

「大したことではない。」

18.土の精のコーラス

(原注:ドイツ風の章。‘土の精’は地中の精霊に属する種族で、人間に仕えることがある。また、そこまでしなくても、人間にシンパシーを抱き、人間のためになることを時々してくれる。(サンロックが集めた伝説集を参照すること。))

小さな土の精たちが歌う。

「この男の眠りを利用しよう! ―― こいつは間違ったことをした。見世物小屋の芸人にごちそうした。10月に3月(マルス)ビールをがぶ飲みした。 ―― このカフェ ―― マルス(3月)で。葉巻、煙草、クラリネット、ファゴットの伴奏付き。」

「働こう、兄弟達よ。日の出まで。鶏が鳴くまで。ダマルタン行きの馬車が出るまで。「モーの鷲」ホテルの近くにある古い聖堂の、鐘の音が聞こえるまで。

メリノ髪の女がこいつの精神を苦しめているのは確かだ ―― 3月(マルス)ビールやアルシュ橋の木槌みたいに。 ―― でも、あの女の角は、芸人が言ったのとは違ってた。 ―― パリの奴はまだ若い・・・。‘客寄せの口上’に十分用心してなかった。」

「働こう、兄弟達、働こう。やつが眠っている間。頭のビスを外すことから始めよう。 ―― それから、ハンマーでちょっと叩いて、 ―― そうだ、ハンマーだ、 ―― この哲学的な頭蓋骨の仕切り壁を開封しよう ―― 角が二つある!」

「こいつが自分の脳髄の仕切りの一つの中に住み込まないように。 ―― メリノの髪の女と結婚するって考えるなんて! 最初に、頭の前と後ろを清潔にしよう。 ―― そうすれば、血がもっときれいに巡るようになり、神経の中枢が背骨の上できれいに広がる。」

「フィヒテの‘我’と‘非我’が、客観性に満ちた精神の中で、恐ろしい戦いを繰り広げている。 ―― 彼が3月(マルス)ビールにふりかけなかったら ―― ご婦人方に出されたポンチを何杯かをだ!・・・。スペインの女はヴェニスの女と同じくらい魅力的だった。でも、彼女のふくらはぎは偽物だ。 ―― 彼女が踊るカチューカは、マビールで習ったものだろう。」

「働こう、兄弟達よ、働こう。 ―― 頭蓋骨がきれいに掃除される。 ―― 記憶の仕切りがもう事実の列を抱えている。 ―― 因果論 ―― そうだ、因果論が ―― 彼を主観性の感覚にまで導いていくことになる。 ―― 用心しよう。俺たちの仕事が終わる前に、奴が目を覚まさないように。」

「この不幸な奴が目を覚ますと、血の一撃で死ぬかもしれない。医学では脳溢血と呼んでる。‘頭上彼方’では俺たちを非難するかもしれない。不死の神々よ! 彼が動く。ちょっと呼吸する。頭蓋骨をもう一度閉じよう。木槌の最後の一撃だ。 ―― そう、木槌。 ―― 鶏が鳴く。 ―― 時計が鳴る・・・。頭痛だけですんだ・・・。‘そうでないといけなかった’。」

19.目覚める

この夢は絶対に馬鹿げていすぎる・・・。ぼくにとってさえも。もう完全に起きてしまった方がいい。 ―― あの小さなお調子者たち! 彼等がぼくの頭を分解した。その後で、頭蓋骨の断片を小さな斧でがんがん叩いてもう一度組み合わせた! ―― ほら、鶏が鳴いている!・・・ということは、ぼくは田舎にいる! たぶんルシアンの鶏だ。‘Αλεκτρυών(鶏)’。ああ、古典の思い出よ。ぼくから何と遠い所に来てしまったんだろう!

5時が鳴る。 ―― ぼくはどこにいるんだろう。 ―― ぼくの部屋じゃない・・・。あっ、思い出した。 ―― 昨夜はホテル・ラ・シレーヌに泊まったんだった。ヴァロワが経営者。 ―― ‘モーという素晴らしい町の中にある’(セーヌ・エ・マルヌ県、ブリのモー)。

ぼくは、市長ご夫妻にご挨拶しないままでいた! ―― それはビルボケが犯した過ちだ。(‘身支度をしながら’)

    「求婚者たち」のアリア
   行こう ―― うーん! ―― ご挨拶に
   この家の娘に!・・・(リフレイン)
   そうだ、同意する。彼女が正しい。
   そうだ、そうだ、尻軽女が正しい!
   あいさつに行こう、等々。

ほら、頭痛がなくなった・・・。頭痛はしない。でも、馬車が出発してしまった。ここに残ろう。恐ろしい混乱から抜け出そう。芝居や ―― 夢や ―― 現実の混乱から。

パスカルはかつて言った。
「人間は気が狂っている。必然的すぎるほど気が狂っているので、気が狂っていないのは、別な風に気が狂っているということになる。」

ラ・ロシュフコーが書き足した。
「たった一人で賢者であろうとするのは、偉大な狂気である。」

格言は心を慰めてくれる。

20.考察

思い出を再構築してみよう。

ぼくは成人で、ワクチンも打っている。 ―― 肉体的はことはとりあえず問題ではない。社会的な地位は、昨夜の芸人よりも上だ。 ―― ヴェニス生まれの女にぼくから求婚するなんて絶対にしないだろう。

渇きの感情がぼくを悩ませている。

この時間にマルス(3月)カフェに戻ること ―― そんなことをしたら、消えた花火の火の上をまた歩くということになってしまう。

その上、この時間に誰も起きてはいない。 ―― マルヌ河に沿って、恐ろしい水車の横をぶらぶら散歩しよう。その記憶が、ぼくの夢を混乱させたのだったけれど。

水車はスレート吹きで、月の光の下ではとても暗くて、うるさい。でも、朝日の光を浴びると、魅力に満ちているはずだ。

今しがた、ぼくは、カフェ・ド・コメルスのボーイたちの目を覚まさせた。猫たちの一団が、大きなビリヤード・ホールから抜け出して、テラスでじゃれあいに行く。そこは、クロベの木、オレンジの木、バラ色や白のホウセンカ等に囲まれている。―― ほら、猫たち、蔦のからまった生け垣のアーケードに沿って、猿みたいに飛び上がっている。

おお、自然よ! 我、汝を祝す!

ぼくは猫好きだけれど、ここにいる灰色で長い毛をした犬も撫でてあげる。やっとこさで伸びをしているんだ。口輪ははめていない。 ―― まあ、どっちでもいい。狩りのシーズンが始まっている。

感じやすい心にとって、パリから40キロ離れたマルヌ河の上で、‘日の出を見る’のはなんと気持ちがいいことだろう!

こちらの岸のずっと向こう、水車の列を超えた方に、もう一つのカフェがある。カフェ・ド・コメルスに劣らずきれいで、‘市庁舎(郡庁)カフェ’という名前。モーの市長がすぐ近くに住んでいて、目が覚めると、そこにあるニレの小径や、テラスを飾る深い緑色のアーケードに目をやる。カマルゴ嬢の陶器でできた実物大の像も素晴らしい。腕が欠けているのが残念。足は、昨日のスペイン女の足や ―― オペラ座のスペイン出身の踊り子たちの足 ―― のようにすらっとしている。

彼女がペタンクを仕切っている。

ぼくはボーイにインクを頼んだ。コーヒーはまだできない。テーブルの上には腰掛けがのっていて、いっぱいになっている。ぼくは二つほど腰掛けをどける。小さな白い猫を腕に抱いて、考えに浸る。猫の目は緑色。

橋の上を人が通り始める。橋には八つのアーチがある。マルヌ河はもちろん‘マルヌ(泥)’が多い。でも、今は鉛色をしている。水面の筋は、水車から出た流れ。もっと向こうだと、楽しげに飛び回る燕たちがつけたもの。

今夜は雨が降るのだろうか。

時々、魚が飛び跳ねる。その動きは、実際、あの濃い褐色の女の子の、動きの激しいカチューシャに似ている。その子のことをあまり知らないので、ご婦人と呼ぶのはやめておく。

向こう岸の、ぼくのいる目の前には、ナナカマドの木が並んでいる。珊瑚色の種がとてもきれい。「鳥たちのナナカマド ―― ‘アヴィアリア’。」 ―― ぼくがそれを習ったのは、パリ大学で入学資格を取ろうと思っていた時のことだった。

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