
現代の日本人が美しいと感じる美意識の原型は、平安時代に成立したのではないかと考えられる。
日本は、古墳時代からすでに中国大陸の影響下にあったが、6世紀(538年頃)に仏教が伝来して以来、圧倒的な大陸文化の影響下に入った。
奈良時代、法隆寺、薬師寺などの仏教建築、『古事記』『日本書紀』『万葉集』等の文字による文化的表現も、確かにある程度日本的な受容の形を示している。しかし、次の時代の美意識とは断絶があると考えられている。
平安時代、とりわけ9世紀末(894年)に遣唐使が廃止されて以降、大陸との交流が限定的となり、大陸文化の和様式化が大きく進展した。
そうした中で、現在の私たちがごく自然に感じる四季の移り変わりに対する繊細な感受性、もののあわれに美を感じる心持ち、穏やかで調和の取れた美の嗜好等が生み出されていった。
京都の貴族たちが、寝殿造りの建物の中で、『古今和歌集』『枕草子』『源氏物語』を楽しんだ時代。平等院鳳凰堂は地上に出現した浄土(極楽)ともみなされる。
こうした状況は、12世紀の終わりに源頼朝が鎌倉幕府を開いた時代に、次の段階を迎える。
平安時代の末期に始まった宋との貿易の再開、禅宗の定着等により、新しい時代の美意識が誕生し始める。象徴的に言えば、寝殿の自然を模した庭園が枯山水へと変化する。





