
ジョスカン・デ・プレ(Josquin des Prés)は、15世紀後半から16世紀初めにかけて活動した、盛期ルネサンスを代表するフランドル学派の作曲家。
レオナルド・ダ・ヴィンチと同時代に活躍しため、レオナルドが絵画において果たした役割を音楽において果たしたと言われることもある。
宗教改革で有名なルターからは、「ジョスカンは音符の主人。他の作曲家は音符の指図に従う。ジョスカンに対しては、音符が彼の望み通りに表現する。」と言われたとされ、非常に高く評価された。
ルネサンス期の文学作品を読み、絵画を見る時、ジョスカン・デ・プレの曲に耳を傾けるのも悪くない。
ジョスカン・デ・プレが作曲したのは、ミサ曲、宗教曲が中心だが、ここではまず、世俗曲(シャンソン)を聞いてみよう。
リュートの伴奏で歌われる「さらば、我が愛(Adieu mes amours)」。
合唱で歌われる「スカラメッラが戦争に行く(Scaramella va alla guerra )」。
演奏は、ピエール・ド・ロンサールの生家の前だという。
「愛しい人に口づけた(Baisés moy ma doulce amye)」は四声部の楽しい曲。
ジョスカン・デ・プレの最大の功績は、循環ミサ曲の形式を発展させ「通模倣様式」を生み出したことだと言われる。
循環ミサ曲では、共通の定旋律は一つの声部(低音部)のみに限定されていた。
「通模倣様式」では、定旋律を全声部に広げ、先行する声部の旋律が一定の間隔を置いて他の声部で再現される。要するに、繰り返しによって強調された歌詞は、全員でハモってまた繰り返される。そのことで、「和音を作る」ことになる。
和音という概念のなかったルネッサンス音楽にとって、それは革命的なことだった。
「通模倣様式」を使った代表作が、「ミサ・パンジェ・リングァ(Missa Pange Lingua)」。フィリップ指揮のタリス・スコラーズの合唱で聞いてみよう。
ヒリヤード・アンサンブルの合唱による「ミサ・エルクレス(Missa Hercules Dux Ferrariæ )」。
タリス・スコラーズによる「アヴェ・マリア(Ave Maria)」。
ジョスカン・デ・プレの音楽に代表されるこの時期の音楽は、和声が強く意識されたポリフォニー音楽。旋律や歌詞よりも、和声の美しさが重視されている。
そのために、「優美」や「静けさ」が強く感じられ、ルネサンス的な調和に満ちた美を発散している。
現代のリズム中心の音楽とはかなり違っているために最初は違和感があるかもしれないが、聞き慣れてくると、穏やかで調和の取れた音楽的な美に浸ることができるだろう。