
加古隆は、東京芸術大学、パリ国立高等音楽で学んだ経歴を持つ作曲家であり、ピアニスト。
古典的なクラシック音楽、現代音楽、モダン・ジャズ、フリー・ジャズなど幅広いジャンルを手がけた後、シンプルなメロディーに基づく美の世界を開拓している。
彼の曲は、視覚を通して映像の世界につながり、そこから反転して、映像が聴覚を豊かにするという、共感覚的な美しさがある。
シンプルなメロディーを展開する楽曲のきっかけとなったのは、イングランドの民謡「グリーンスリーブス」をモチーフにした「ポエジー」。
「水の前奏曲 Plélude de l’eau」は、題名の通り、様々な水の動きを感じさせる。
日本の魂の故郷ともいえる熊野古道をテーマにした曲集から、「アボルダージュ 銀河」。
小川洋子の小説を映画化した「博士の愛した数式」のテーマ曲。
「パリは燃えているか」もNHKの番組「映像の世紀」のテーマ曲。
「色を重ねて Layers of the Color」では、舞踏カンパニー山塊塾を主催する天児牛大(あまがつ うしお)の演出によって、音楽と映像のコラボレーションが行われている。
加古隆は、2006年にNHKで放映された「この手にメロディーを ピアノの詩人加古隆」という番組の中で、彼の音楽観について、次のように語っていた。
ピアノの音は、ぼくにとっては、樹の響き。美しいピアノの音というのは、心の中に染み込んで来るような響きがあるっていう風に、ぼくには聞こえる。
ああ、そうか、ぼくは美しいピアノの音を出せばいいんだ。できるだけ美しいピアノの音を響かせ、届けることを大切な目標に持つべきだ。
なぜかというと、美しいピアノの音は、ぼくの好きな樹の響きが心に染み込むように、心を震わせてくれる。
で、そういう心が溢れた人は、美しい水や美しい土を大切に思う感性を養っていくことができる人なんじゃないかと思う。美しい樹の響きを響かせることを熱心にやる。そうすれば、そうしたものを大切にする感性が、聞いている人の中に、育っていくちょっとした種になるかもしれない。
この言葉を頭の中に置きながら、加古隆、ピアニストの辻井伸行、デュオのピアニストレ・フレールとの競演で、「黄昏のワルツ」を聞いてみよう。