ジェラール・ド・ネルヴァル 「 オーレリア」 人間の魂の詩的表現 Gérard de Nerval Aurélia 1−8

第8章では、前の章に続き、ネルヴァルによる世界創造の情景が描かれる。
夢の中で運ばれた暗い惑星では、あたかも恐竜時代のような光景が展開し、上空には明るい星が姿を現す。

第8章

怪物たちは姿を変化させ、初めに身につけていた皮を脱ぎ捨て、巨大な足で力強く立ち上がった。その巨体のすさましい塊が枝や葉を打ち倒し、混乱した自然の中で、怪物たちはお互いの間で戦いを繰り広げた。私もその戦いに参加していた。私も怪物の体をしていたのだ。突然、独特なハーモニーが孤独な空間の中に鳴り響いた。すると、原初の生物たちの混沌とした叫び声やうなり声、鋭い鳴き声が、神聖な調べに調子を合わせていった。その変調は無限に続いた。一つの惑星が少しづつ明るくなり、緑の植物や深い森の上には神々の姿が描かれた。その時から、私が目にした怪物たちは全てがおとなしくなり、奇妙な姿を脱ぎ捨て、人間の男女になった。他の怪物たちは、姿を変える中で、野獣や魚や鳥の姿を纏っていった。

注:
荒れ果てた空間の中で怪物たちがうごめく混沌とした場面に、一つのハーモニーが響く。そして、そのハーモニーに合わせ、全てが調和を始める。次にまた混乱し、調和を取り戻す。
ネルヴァルにとって、創世神話はそうした混沌と調和の連続と見なされるが、その中で重要なことは、全てが最終的には調和(ハーモニー)に基づいていること。別の視点から見ると、彼の試みは、混沌とした世界あるいは精神に調和を取り戻すことだと考えられる。

誰がこの奇跡を作り出したのだろう? 光輝く一人の女神が、新しい「化身」たちの中で、人間の急速な変革を導いていた。鳥類から始まり、動物、魚類、は虫類といった種の区別も確立した。「神々(ディーヴ)」、「妖精(ペリ)」、「水の精(オンディーヌ)」、「火トカゲ(サラマンドル)」だ。それらの一つが死ぬ度に、すぐにより美しい姿になって生まれ変わり、神々を讃える歌を歌った。——— しかし、神々エロヒムの一人が、第5の種族を作ろうと思い立った。大地の要素で構成されたその種族は、「悪魔(アフリット)」と呼ばれた。——— それが「精霊」たちの間の全面的な革命の合図となった。「精霊」たちは、世界の新しい支配者を認めようとはしなかった。惑星を血で染めたその戦いが何千年続いたのか私は知らない。最後になり、3人のエロヒムが彼らの種族の「精霊」たちと共に地球の真ん中に追放され、巨大な王国を建設した。彼らは世界を繋ぐ神聖な「カバラ(ユダヤ教の神秘思想)」の秘密を持ち去っていたために、彼らが絶えず交信している惑星を崇める中で活力を得ていた。地球の果てに追放された魔術師たちは、お互いに連絡を取り、力を伝え合っていたのだ。女や奴隷に囲まれた君主は、彼らの子どもたちの一人の姿に生まれ変わることができると確信していた。寿命は1000年だった。死が近づくと、力のある魔術師たちが彼らを陵墓に閉じ込めた。そこはしっかりと防御され、霊薬と保存用の食物で彼らを養った。君主たちは、さらに長い間、生命の外観を保った。繭を紡ぐサナギのように、40日間眠り、小さな子どもの姿に生まれ変わった。その子は後に帝国に呼び戻された。

しかし、大地の生命力は、これらの種族を養うために消耗していった。常に同じ血が、新しく生まれる子孫たちを浸していたのだ。彼らは、陵墓やピラミッドの下に穿たれた巨大な地下の中に、過去の種族の財宝や護符を蓄積してきていた。それらが、神々の怒りから彼らを保護してくれたのだ。

アフリカの中央部、「月」の山々と古代エチオピアの彼方で、不思議な出来事が起こった。長い間、私は、人類の一部と同じように、捕虜となり、うめき声を上げてきた。かつてあれほど緑に見えた森は、青白い花と萎れた葉だけになっていた。太陽が情け容赦なくその地域を焼き尽くし、永遠の王朝のひ弱な子孫たちは、生命の重荷に打ちひしがれているようだった。礼儀作法や神聖な式典によって定められた重々しく単調な権威が、全ての人々の上にのしかかり、誰も逃れることができずにいた。老人たちは王冠と皇帝の飾りの重みの下で衰弱していたが、彼らを取り巻く医師や僧侶たちの知識によって不死が保証されていた。民衆に関して言えば、社会階級の分断の中に永遠に巻き込まれ、生命も自由も当てにすることができなかった。死と不毛にみまわれた木々の根元や、干上がった泉の口では、焼けた草の上に萎れている、衰弱して色を失った子どもたちや女たちの姿が見えた。王宮の寝室の輝き、回廊の堂々とした様子、服や装飾の輝き、それらはこうした孤独な空間の永遠の倦怠に対する、わずかな慰めにすぎなかった。

間もなく、人々は疫病によって大量に殺戮され、動物も植物も死んでいった。不死の神々もまた、豪華な衣裳の下で衰弱していた。——— それまでよりも大きな災害が、突然、世界を若返らせ、救いとなった。オリオン星群が天空に水流を開いた。対極の氷が重くなりすぎ、大地が半回転した。海が海岸を乗り越え、アフリカとアジアの高原になだれ込んだ。洪水が砂漠に染み込み、墓地やピラミッドをおおった。40日の間、一艘の神秘の箱船が海の上を漂った。新しい創造の希望を乗せて。

3人のエロヒムが、アフリカの山脈の最も高い頂上に避難していた。戦さが彼らの間で勃発した。ここで私の記憶が乱れ、最終的な戦闘がどのような結果になったのか私にはわからない。ただ、未だに見えているのは、水に浸された頂上で、彼らから見放された一人の女性が、髪を掻き乱しながら叫び声を上げ、死と戦っている姿。彼女のうめき声が水の音をかき消していた。・・・ 彼女は救われたのだろうか? どうなったのか私は知らない。彼女の兄弟である神々が、彼女を断罪したのだった。しかし、彼女の頭上には、「夕べの星」が輝き、彼女の額の上に燃えるような炎を投げかけていた。

大地と天空の絶え間ない賛歌が調和を持って鳴り響き、新しい種族たちの合意を祝福した。ノアの子孫たちが新しい太陽の光に照らされ、苦労しながら労働している間、魔術師たちは、地下の住み処で身を丸くし、財宝を守り続けながら、沈黙と夜の中で満足していた。彼らは時々隠れ家からおずおずと抜けだし、生者たちを怖がらせたり、悪意ある人々の間に彼らの秘術の不吉な教えを撒き散らすのだった。

以上が、過去をぼんやりと直感して描いた思い出だった。私は、呪われた種族のゾッとする顔立ちを再現しては、身を震わせた。至るところで、「永遠の母」の苦しむ姿が、瀕死の状態になり、涙し、衰弱していた。アジアとアフリカの漠然とした文明を通して、大酒宴と大殺戮の血なまぐさい場面が永遠に繰り返されるのが目に入った。それらは、同じ精霊たちが新たな形で再現したものだった。最後の場面はグラナダで起こった。神聖な護符が、キリスト教徒と回教徒の敵対する攻撃の中で崩れ去った。さらに何年の間、世界は苦しまなければならないのだろう。なぜなら、永遠に敵対する者たちの復讐は、別の空の下で新たに行われることになるのだ! それらは、大地を抱きかかえる蛇の体が切り刻まれた断片なのだ。・・・鉄剣で切り裂かれたそれらの断片は、人間の血によって固められたおぞましい口づけの中で再び結合する。

注:
恐竜のうごめく世界、精霊たちの世界、古代ユダヤや古代エジプトの王朝を思わせる世界、ノアの箱舟を連想させる大洪水、地上の住民と地下の魔術師という二元的な世界、そして、キリスト教徒とイスラム教徒が争い、1492年のグラナダの陥落で終わるレコンキスタ(再征服運動)のエピソードまで、ネルヴァルは巨視的に世界の歴史を素描する。
その中で強調されるのは、全ては「同一のもの」が別の形で再現されたのであり、その根本には「永遠の母」があるということ。
そのことを通して、血なまぐさい争いの原因は女性性の抑圧であり、世界の調和はその回復によって得られることが暗示される。

もう一つ注目したいことは、夢の中で垣間見たとされる世界史が、最後になって、「過去をぼんやりと直感して描いた思い出」とされている点。
『オーレリア』で描かれる映像が、理性に基づく論理ではなく、「直感」によって把握されたものであることは、「人間の魂の研究」へのアプローチを考える上で重要である。

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