ネルヴァル 「祖母」 Nerval « La grand’mère » 詩句の音楽性と記憶の作用

Douleur bruyante est bien vite passée :
Depuis trois ans, d’autres émotions,
Des biens, des maux, — des révolutions, —
Ont dans les cœurs sa mémoire effacée.

騒がしい苦痛はすぐに通り過ぎた。
3年前から、心を動かす別の事、
良い事や悪い事、ー いくつかの革命 ーが、
みんなの心から祖母の記憶を消し去った。

詩句はやはり散文に近い。
4行目は語順が散文とは違っているが、これは、effacéeを詩句の最後にして、passéeと韻を踏ませるため。
この韻は、通り過ぎる(なくなる)と消え去るの意味が重なるため、それなりに必然性がある。必然性がない場合には、いい韻とは言えない。

Moi seul j’y songe, et la pleure souvent ;
Depuis trois ans, par le temps prenant force,
Ainsi qu’un nom gravé dans une écorce,
Son souvenir se creuse plus avant !

ぼくだけが祖母のことを考え、しばしば涙する。
3年前から、時間が力を増し、
木の皮に掘られた名前のように、
祖母の思い出がもっと先まで彫り込まれていく。

最終詩節では、すでに指摘した « Moi seul »以外に、もう一カ所詩句に手が加えられる。
2行目の« Depuis trois ans »は、34年には« Chez moi toujours »だった。« Depuis trois ans »とすることで、第3詩節の同じ語句を反復すると同時に、「祖母」の最初に置かれた« Voici trois ans »を思い起こさせる働きもする。
3年が反復されることで、時間の経過がより強調される。

« Depuis trois ans »以下の詩句は、34年の発表時のままで、手を加えられてはいない。実際、この詩句はそのままで詩的な効果を持っている。
一つは絵画性。もう一つは詩句の内容。

記憶が、木の皮に彫り込まれた名前と比較され、映像として表現される。詩を絵画的にする表現法は、伝統的な詩の一つの特色である。

さらにその比喩によって、ネルヴァルの記憶作用と一般の記憶作用の対比が、見事に浮かび上がる。
木の幹に名前を刻む。時間が経てば、その刻印は薄くなり、いつかは消えてしまう。それは、おばあさんの葬儀から3年経ち、みんなの記憶から思い出が消えがちなことと対応している。

しかし、ネルヴァルは、逆接的に、時間が経つに従って時間は力を増し、思い出も深くなると言う。
そのことで、木の表皮に彫りつけた文字のイメージが持つ意味を、詩句の力によって新たなものにする。皮の刻印は消えるのではなく、奥へと彫り込まれる。
ネルヴァルにおいて、過去は消え去るのではなく、現在に留まり続け、沈潜するのである。

こうした感受性が、後の作品の中では「無意識的記憶」と名付けうるエピソードを生む原動力になる。ある物を眼にして、一気に過去の思い出が蘇る記憶作用。
プルーストのマドレーヌの原形ともいえる。

「祖母」は単純に見える小さな詩だが、「ファンテジー」と並んで、若いネルヴァルを代表する作品であり、彼の作品全体を通底する記憶作用を明かしている。

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