「通り過ぎた女(ひと)へ」の中で、詩人は、雑踏の中ですれ違った女性を思い返し、もう二度と会うことはないであろう彼女に向けて呼びかける。

その女性が象徴するのは、一瞬のうちに通り過ぎる、儚く、束の間の美。一瞬の雷光。
同時に、その美は心の中に刻まれ、決して消えることはない。それは、永遠に留まる神秘的な美。
こうした、一瞬で消え去りながら、同時に永遠に留まるという美の二重性を、ボードレールはモデルニテ(現代性)の美と呼び、その典型をコンスタンタン・ギースの絵画に見出した。
「通り過ぎた女(ひと)へ」は、モデルニテ美学のエンブレムとなる、十四行のソネット。
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