フランス語講座 プルースト 『失われた時を求めて』 Marcel Proust À la recherche du temps perdu 2/5

本を読みながら寝ていると、本を読んでいるつもりでも、眠ってしまっている時がある。そんな時、頭の中では、読んでいた本の内容が続き、眠っているのか、起きているのか、よくわからない。
そんな半睡半覚の状態を、プルーストは、巧妙に入り組んだ構文の文章によって、見事に再現している。

Et, une demi-heure après, la pensée qu’il était temps de chercher le sommeil m’éveillait ; je voulais poser le volume que je croyais avoir encore dans les mains et souffler ma lumière ; je n’avais pas cessé en dormant de faire des réflexions sur ce que je venais de lire, mais ces réflexions avaient pris un tour un peu particulier ; il me semblait que j’étais moi-même ce dont parlait l’ouvrage : une église, un quatuor, la rivalité de François Ier et de Charles-Quint. 

Et, une demi-heure après, / la pensée / qu’il était temps / de chercher le sommeil / m’éveillait ;

Une demi-heure après:半時間後、
la pensée :考え
que… 考えの内容を示す。
il était temps de :・・・する時だった。(動詞は半過去)
chercher le sommeil:眠りを探す⇒眠ろうとする。
m’éveillait:私を起こした。(動詞は半過去)

眠ろうと思う気持ちのために、かえって目が覚めてしまうという経験は誰にもある。
この一文の意味は誰にもわかりやすいが、二つの点で、日本人には理解が難しい。

a. 名詞表現 vs 動詞表現

日本語では動詞表現が馴染みやすいが、フランス語の書き言葉では名詞表現が多く使われる。

chercher le sommeil :眠り(名詞)を探す:眠ろう(動詞)とする。

la pensée m’éveillait. その考え(名詞)が、私を目覚めさせた(他動詞):考える(動詞)ために、目が覚めた(自動詞)。

b. 名詞を主語にし、人を目的語にする構文。

フランス語では、原因(眠ろうという考え、la pensée qu’il était temps de chercher le sommeil)を主語にして、結果を述語(m’éveillait)で表現することがある。

日本語とフランス語のこうした違いのため、この文を日本語に訳してから理解しようとすると、意味がわかりにくくなる。
とにかく、前から意味のかたまり毎に読み、理解する練習が必要。

30分後(une demi-heure après)、考え(la pensée)、それは眠りを探す時だという考え(qu’il était temps de chercher le sommeil)、その考えが私を目覚めさせた(m’éveillait)。

動詞の時制:半過去

半過去は、行為の背景となる状況を描く時制。
la pensée m’éveillaitは、考えたために目覚めたという動作を表すのではなく、そうした状況があったという事実を提示している。

Qu’il était temps :現在の時間帯において現在形で表される時点は、過去においては半過去で示される。いわゆる「過去における現在」。
queに続く文の中の半過去は、しばしば「過去における現在」を表す。

je voulais / poser le volume / que je croyais / avoir encore / dans les mains / et / souffler ma lumière ;

Je voulais :・・・しようと思った。(半過去)
poser :置く
le volume:本
je croyais :思っている。(半過去)
avoir:持つ。
encore:まだ
dans les mains:手の中に
souffler :吹く
ma lumière :私の光=ロウソク

本(le volume)を置こうと思っていたという文の後、本に関する説明が、関係代名詞(que)を使って付け加えられる。

日本語ではそうした説明は名詞の前に置かれるが、フランス語では名詞の後ろに続く。
そのために、日本人にはわかりにくい表現だと感じられる。

le volume / que je croyais / avoir encore / dans les mains
本、私は思っていた、まだ持っている、手の中に
この語順で読み、意味を理解することが、フランス語を前から順番に読み、そのまま理解できるようになるコツ。

Et の難しさ

et souffler ma lumière

etの前後には、同じ要素が置かれる。
前が名詞であれば、後ろも名詞。
原形が前に来れば、後ろも原形。等。

soufflerは原形。
従って、poserとavoirのどちらかと同格の可能性がある。
では、どちらかか?
que je croyais avoirの場合、avoirの目的語は関係代名詞の前のle volume。
souffler la lumièreのla lumièreは直接目的語。
従って、関係代名詞の文でないことがわかる。

他方、本を置き(poser le volume)、ロウソクを消そう(souffler la lumière)と思ったのであれば、構文的にも、意味的にも、問題はない。
そこで、je voulais poser (…) et soufflerという構文だと理解できる。

je n’avais pas cessé / en dormant / de faire des réflexions / sur ce que je venais de lire,

je n’avais pas cessé de :・・・するのを止めていなかった。(大過去):cesser de ・・・するのを止める。
en dormant:眠りながら(ジェロンディフ)
faire des réflexions :考察を行う⇒いろいろ考える。
sur :について
ce que :・・・のこと
je venais de :・・・したばかりの。(半過去)venir de … ・・・ばかり(近い過去のことを示す。)
lire:読む

理解する順番
ずっとやめていなかった、眠りながら、いろいろ考えるのを、読んでばかりのことについて

大過去  je n’avais pas cessé de …

大過去が使われるのは、je voulais poser le volume et souffler ma lumièreより以前に、すでにいろいろと考えを巡らしていたという時間の関係を示すため。

ジェロンディフ  en dormant

ジェロンディフは、現在分詞(ant、英語のing)の前にenを置いた形。
現在分詞は、形容詞と副詞の役割をするが、ジェロンディフは、enがあることで、副詞の役割だけに限定される。
ここでは、いろいろ考えている時、どのような状況だったか説明を付け加える役割をしている。

文法書では、ジェロンディフの役割として、同時性とか原因とかの意味と説明されることがある。
しかし、実際には、決まった役割があるのではなく、文章のコンテクストの中で意味が決まる。

mais / ces réflexions / avaient pris un tour / un peu particulier ;

mais:しかし
ces réflexions:それらの考え
avaient pris:取った。(大過去)
un tour:様子、展開、表現。:tourner=回る。tour=回ること、ツアー、一周等が本来の意味。そこから様々な意味が派生する。
un peu:少し
particulier:独特な、特別の

「そうした考えが独特な表現を取っていた」という日本語が少しわかり難いとしたら、名詞表現のためだと考えられる。

ces réflexionsを動詞的に「いろいろと考えていたのだが」として、「その展開が少し独特だった」考えると、理解しやすくなる。

maisの意義

なにげなく使われているように見えるmaisだが、プルーストは、ここから、自分の世界に読者を引き込むことに成功している。
maisの前までは、一般論として誰にでも当てはまることが述べられていて、読者は語り手の世界にすっと入っていった。
maisの後になると、un tour un peu particulierが示され、読者は思ってもみない世界に連れていかれる。
こうしたプルーストの小説技法は、見事である。

un peu particulierな様相がどんなものだろ?
それが、次に提示される。

il me semblait / que j’étais moi-même / ce dont parlait l’ouvrage : / une église, / un quatuor, l/ a rivalité de François Ier et de Charles-Quint. 

il me semblait que :・・・のように思われた。(半過去)
j’étais : êtreの半過去
moi-même:私自身
ce dont:・・・のもの。dontは関係代名詞。続く文の中にdeとつながる要素がある。
parlait:話す。(半過去)
l’ouvrage :作品
:つまり
une église :教会
un quatuor:弦楽四重奏
la rivalité:敵対関係
Français 1er :フランソワ一世。16世紀のフランス王。
Charles-Quint:カール五世。16世紀の神聖ローマ帝国の皇帝、およびスペイン王。

理解する順番
私には思われた、私自身、本の話している内容、つまり、一つの教会、弦楽四重奏曲、ライヴァル関係、フランソワ一世とカール五世の。

関係代名詞 dont

ce dont parlait l’ouvrage
ce (こと)を説明するために関係代名詞のdontが使われるのは、続く動詞parlerにdeが続く構文が要求されるため。
つまり、parler de のdeが、dontに含まれている。

ce que je venais de lireの場合、lireが直接目的語を要求するために、関係代名詞は、queになる。

その違いから、次のことが理解できる。
ceの次に、queあるいはdontを続けるとき、話者(書き手)は、次に続く文を組み立て、直接目的語を要求する動詞か、deを要求する動詞か、すでに頭の中に描いている。
そこで、読者も、queがくる場合には前の名詞が動詞の目的語になることを予想し、dontの場合には、どこかにdeが必要な構文があることを予測できることになる。

j’étais moi-même ce dont parlait l’ouvrage :

私自身が、読んでいる本の内容になっている。
これこそ、un tour un peu particulierに他ならない。
普通、本を読んでいて、主人公に感情移入することはよくある。
しかし、プルーストは、教会になったり、音楽の曲そのものになったり、歴史上の人物たちの関係を自分が体現しているように感じる。

『失われた時を求めて』全体が、語り手の思い出の長大な展開だと考えられているが、語られるのは個人的な思い出だけではなく、ce dont parlait l’ouvrageでもあることが、ここで示されている。

単語の復習

名詞
une demi-heure, le temps, le sommeil, le volume, les mains, ma lumière, une réflexion, un tour, (une tour 塔), l’ouvrage, une église, un quatuor, la rivalité

動詞
il est tempe de, chercher, éveiller, vouloir, poser, croire, avoir dans les mains, souffler, cesser, dormir, faire des réflexions, venir de, lire, prendre un tour, il me semble que, parler de.

その他
une demi-heure après, encore, ce que, ce dont, un peu, particulier, moi-même.

こうした単語をさえ覚えていれば、全文を前から読み、そのまま理解できるようになっていく。トライしてみよう。

Et, une demi-heure après, la pensée qu’il était temps de chercher le sommeil m’éveillait ; je voulais poser le volume que je croyais avoir encore dans les mains et souffler ma lumière ; je n’avais pas cessé en dormant de faire des réflexions sur ce que je venais de lire, mais ces réflexions avaient pris un tour un peu particulier ; il me semblait que j’étais moi-même ce dont parlait l’ouvrage : une église, un quatuor, la rivalité de François Ier et de Charles-Quint. 

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