フランス語講座 ネルヴァル 「シルヴィ」 Gérard de Nerval « Sylvie » 1/2 心のスクリーンに映し出された映像を描く散文

ジェラール・ド・ネルヴァルの「シルヴィ」は、とても美しく音楽的な散文で綴られている。
とりわけ、冒頭の一節で描き出される劇場の様子は、21世紀のフランス語の文章構造と比較するとずいぶんと複雑で、わかりにくいと思われるかもしれない。
しかし、前から読み、ブロック毎に意味を理解していくと、情景が自然に心の中に浮かび、主人公の「私」と同じ感覚を味わっているような気持ちになる。

文章が複雑だと感じられる原因を探りながら、それが難しさではなく、文体上の工夫だとわかると、フランス語で文学作品を読む楽しみを感じることができるようになる。

Je sortais d’un théâtre où tous les soirs je paraissais aux avant-scènes en grande tenue de soupirant. Quelquefois tout était plein, quelquefois tout était vide. Peu m’importait d’arrêter mes regards sur un parterre peuplé seulement d’une trentaine d’amateurs forcés, sur des loges garnies de bonnets ou de toilettes surannées, — ou bien de faire partie d’une salle animée et frémissante couronnée à tous ses étages de toilettes fleuries, de bijoux étincelants et de visages radieux. Indifférent au spectacle de la salle, celui du théâtre ne m’arrêtait guère, — excepté lorsqu’à la seconde ou à la troisième scène d’un maussade chef-d’œuvre d’alors, une apparition bien connue illuminait l’espace vide, rendant la vie d’un souffle et d’un mot à ces vaines figures qui m’entouraient.

朗読
http://www.litteratureaudio.net/mp3/Gerard_de_Nerval_-_Sylvie_Nuit_perdue.mp3

Je sortais / d’un théâtre / où / tous les soirs / je paraissais / aux avant-scènes / en grande tenue de soupirant.

Avant-Scène

je sortais:私は出た。(半過去)
d’un théâtre:劇場から。
où :関係副詞 théâtreの説明する。
tous les soirs:毎晩
je paraissais:私は姿を現した。現れた。
aux avant-scènes:桟敷席
en grande tenue:豪華な服を着て。tenue服装、身なり。
soupirant:恋する男。soupirer:ため息をつく。

構文は、主語+動詞。Je sortais.
その後ろに、場所を示す状況補語(d’un théâtre)が置かれている。
その補語には、関係副詞(où)によって、tous les soirs以下、詳しい説明が付け加えられる。

直接法半過去

je sortaisは、劇場から出たという行為ではなく、出るという場面を絵画のように描写するために使われている。

Je paraissaisも、桟敷席に姿を現したという行為を示すのではなく、劇場での状況を描いている。

文法書では、過去における習慣とか反復と説明されることが多いが、半過去の最も基本的な役割は、中心となる行為が行われる際の背景を描くことにある。

関係副詞(関係代名詞) 日本語との違い

関係副詞oùは、théâtreを説明する。

日本語の語順では、説明が先に来て、最後に中心の言葉が置かれる。
私が立派な服を着て桟敷席に姿を現す/劇場。
フランス語では、名詞が先あり、その説明が後に続けられる。
le théâtre / où tous les soirs je paraissais….

フランス語の語順のまま理解するためには、劇場、そこに、毎晩、私は姿を現した、桟敷席に、立派な服を着て、恋する男の。
以上の順番で理解することが、フランス語を読む時の、もっとも大切なコツ。

Quelquefois / tout était plein, / quelquefois / tout était vide.

quelquefois:時に、
tout était plein:全体が満員だった。
tout était vide:全体が空だった。

散文の美

形態的に見ると、二つの文が、並列し、均整の取れた形で並べられている。Quelquefois tout été… / quelquefois tout était …

その上で、意味論的な対照が行われている。
Plein / Vide

こうした文体上の工夫が、詩的な効果を生み出している。

次の文は非常に長く、要素と要素の関係がわかりにくいかもしれない。
そうした時こそ、構文をしっかりと見極め、言葉と言葉のつながり、関係を前から理解しいくことが必要になる。

Peu m’importait / d’arrêter mes regards / sur un parterre / peuplé seulement / d’une trentaine d’amateurs forcés, / sur des loges / garnies de bonnets / ou / de toilettes surannées, — ou bien / de faire partie d’une salle / animée / et frémissante / couronnée / à tous ses étages / de toilettes fleuries, / de bijoux étincelants / et / de visages radieux.

Peu m’importait de … :私には重要なことではなかった。
arrêter:止める。
mes regards:私の視線
un parterre:平土間、1階後方の席
peuplé de :人がいる、埋まった
seulement:単に
une trentaine de:30人くらいの
amateur:愛好者
forcé:無理強いされた、強いられた。
des loges :ボックス席
garni de:備え付けられた、飾られた。
bonnet:帽子
toilettes:婦人服、身なり。
Suranné:時代遅れの。
ou bien:あるいは。
faire partie de:参加する。
une salle:観客席
animée:活気がある
frémissant:震えている、frémirの現在分詞。→ ざわめいている。
couronnée de:上に・・・が乗っている。une couronne:冠。
à tous ses étages:全ての階で、
toilettes fleuries:花模様の服
bijoux:宝石
étincelant:光輝く
visage:顔
radieux:輝く

基本的な構文は、Peu m’importait d’arrêter…, — ou bien de faire partie…
arrêter mes regardsをする場所は、sur un parterre…, sur des logesの二カ所。
faire partie するune salleは、animée, frémissante, couronnéeという説明がされ、couronnéeにはさらにdeが3つ続き、状況が細かく描かれる。

並列する要素

peu m’importe d’arrêter … の次に、deと同格になる要素があるとしたら、deの後は、arrêterと同じ原形になるはず。
そこで、ou bien de faire partieまで読んだとき、そのdeが、d’arrêterと同格だと自然に理解できる。

劇場の中にほとんど誰もいない(30人くらい)の時もあれば、満員で活気付いていることもある。そのどちらにしても、「私」にとって重要のことではなかった。

1)空席が目立つ時

d’arrêter mes regards / sur un parterre / peuplé seulement / d’une trentaine d’amateurs forcés, / sur des loges / garnies de bonnets / ou / de toilettes surannées

arrêter mes regards (自然を留める)の後は、場所を示すsurが使われている。
sur un parterre / sur des loges.
従って、平土間と、ボックス席に目をやることがわかる。

un parterreの説明として、過去分詞peupléが付けられ、平土間には30人くらいの常連だけしかいないという説明がなされる。
しかも、常連(amateurs)も、無理に劇場に来るように強いられている(forcés)。つまり、まったく熱気のない観客達しか平土間にはいない。

ボックス席には、付属物が付いている(garni)かのように、de bonnets ou de toilettesが見える。
garni de… ou de…で、bonnetsとtoilettesが同格であることがわかる。

toilettesの後ろに形容しsurannéesが置かれている。その形で、女性複数形なので、時代遅れなのは、女性複数名詞であるtoilettesだけにかかり、男性名詞であるbonnetsの説明でないことが示される。

この一節を前から見ていくと、次のような順番で理解できる。
1)目を止めることは、どうでもよかった。
2)目を止める場所は、平土間。
3)そこにいるのは、30人くらいの芝居好き。彼等は無理にそこにいる。(芝居に興味はない。)
4)次にsurが出てくると、自然にarrêter mes regards surと続くことが、前に出てきたsurとの関係で理解できる。
平土間の次に見るのは、ボックス席(sur des loges)。
5)ボックス席を見ると、帽子や女性に服が見える。その服は時代遅れ。

2)満員の時

faire partie d’une salle / animée / et frémissante / couronnée / à tous ses étages / de toilettes fleuries, / de bijoux étincelants / et / de visages radieux.

faire partie d’une salle:観客席に参加する、一体化する。

その観客席の説明が、3つ続く;
salle / animée / frémissante / couronnée …
観客席は、活気があり、ざわめき、上には・・・が乗っているように見える。

couronnéeには、2種類の説明がなされる。
場所) à tous ses étages。全ての階で、
見える物)de toilettes(服)、de bijoux(宝石)、de visages(顔)

次の順番で理解していく。
1)観客席の人達と一つになる。
2)会場が活気付き、ざわついている。
3)どの階でも、花柄の服や、きらきらした宝石や、明るい表情の人達で1杯。

Indifférent au spectacle de la salle, / celui du théâtre ne m’arrêtait guère,/ — excepté / lorsqu’à la seconde ou à la troisième scène / d’un maussade chef-d’œuvre d’alors /, une apparition /bien connue / illuminait l’espace vide, / rendant la vie / d’un souffle / et / d’un mot / à ces vaines figures / qui m’entouraient.

indifférent à :・・・に無関心な、
au spectacle:光景、
de la salle:観客席
celui du théâtre:celui =le spectacle du théâtre 芝居の光景
ne m’arrêtait guère:私をほとんど引き止めなかった。(半過去)
ne… guère:ほとんど・・・ない。
excepté:・・・のぞいて。
lorsque:・・・の時。
à la seconde ou à la troisième scène:第2幕あるいは第3幕
d’un maussade chef-d’œuvre:つまらない傑作
d’alors:その時の、当時の。
une apparition:出現、幻、幽霊。
bien connue:よく知られた。
illuminait:照らした。(半過去)
l’espace:空間
vide:空の
rendant la vie:生命を与える。(現在分詞)
d’un souffle:一吹きで。
d’un mot:一つの言葉で。
à ces vaines figures:おぼろげな姿たち
qui m’entouraient:私を取り囲んでいた。(半過去)

構文は、主語+動詞+目的語。celui du théâtre (s) ne m’ (o) arrêtait (v) guère.
excepté lorsque 以下は、時を示す状況補語。
lorsque以下の構文は、主語+動詞+目的語。une apparition illuminait l’espace.
劇場の様子が空の空間を照らす状況が、場所を示す状況補語(à la seconde…chef-d’œuvre d’alors)と、現在分詞(rendant la vie)によって、描写される。

1)非文法的?

indifférent au spectacle de la salle(観客席の様子に無関心な)なのは、「私」。
つまり、ne m’arrêtaitのmeの説明。
文法的には、indifférentはceluiと関係するように見えるが、読者は意味を考えて、meの説明であることを理解することができる。

「私」は、観客席の様子に関心がないだけではなく、舞台上の芝居の様子にも関心がなく、気持ちをそちらに惹き留められなかった。

2)オクシモロン(撞着語法)

excepté lorsque
・・・時の以外、と訳してしまうと、文章を後ろから理解することになってしまう。
文章を前から理解するためには、「観客にも舞台にも無関心だった。ただ例外があった。それは・・・」と考える。

un maussade chef-d’œuvre

chef-d’œuvreは傑作。それに対して、maussadeは鬱陶しい。
矛盾する言葉を繋げる用法は、撞着語法(oximoron、オクシモロン)と呼ばれる。
この場合、他の人から見れば傑作なのかもしれないが、「私」にとっては退屈な作品。
それほど「私」は劇に関心がないことを示している。

そして、それは、彼のお目当てが芝居ではなく、そこに登場する女優であることを強調することにつながる。
その女優が、2幕目か3幕目に、やっと姿を現す。

Gustave Moreau, Apparition

une apparition bien connue.

ここで、女優une actriceとか、固有名詞でMarie Stuart等と呼ばず、une apparition(出現、幻)という言葉を使う。

さらに、その幻をよく知っていると、矛盾する言葉がつなげられ(オクシモロン)、「私」にとって親しい存在であることが、現実なのか空想なのかおぼろげかわからない、不確かな印象を与えるのに役立っている。
そして、彼女は、空の空間(l’espace vide)を照らしている。

3)現在分詞

rendant la vie .. à ces vaines figures

現在分詞には二つの用法がある。
名詞に続き、その名詞を説明する形容詞(関係代名詞)的な用法。
動詞に付加的な要素を付け加える副詞的な用法。
どちらの場合も、コンテクストの中で、最も相応しい意味を考えることが大切。

ここでは、Une apparition illuminait l’espace vide.(幻のような存在が空の空間を照らした)という主文と、rendant la vie(生命を与えた)がどのような関係にあるのか考える。
最も素直に考えると、出現した姿が空間を照らし、そして空虚な姿をした人々に命を与えたと、前から理解してもいいだろう。

4)関係代名詞

ces vaines figures qui m’entouraient.

私を取り囲んでいる朧気な人々と理解しても問題はないが、関係代名詞の語順を逆転している。

前から理解するためには、虚ろな人々がいる。彼等が私を囲んでいると理解した方が、語順のままでの理解につながる。

最後に全文をもう一度読んで見よう。前からブロック毎に意味を理解していけば、内容が自然に頭に入ってくるに違いない。
http://www.litteratureaudio.net/mp3/Gerard_de_Nerval_-_Sylvie_Nuit_perdue.mp3

Je sortais d’un théâtre où tous les soirs je paraissais aux avant-scènes en grande tenue de soupirant. Quelquefois tout était plein, quelquefois tout était vide. Peu m’importait d’arrêter mes regards sur un parterre peuplé seulement d’une trentaine d’amateurs forcés, sur des loges garnies de bonnets ou de toilettes surannées, — ou bien de faire partie d’une salle animée et frémissante couronnée à tous ses étages de toilettes fleuries, de bijoux étincelants et de visages radieux. Indifférent au spectacle de la salle, celui du théâtre ne m’arrêtait guère, — excepté lorsqu’à la seconde ou à la troisième scène d’un maussade chef-d’œuvre d’alors, une apparition bien connue illuminait l’espace vide, rendant la vie d’un souffle et d’un mot à ces vaines figures qui m’entouraient.

この一節は、劇場の様子を客観的な視点から描く文章ではなく、心のスクリーンに映し出された映像を描く散文で綴られている。
様々な状況補語が主語+動詞(+目的語)に付け加えられているのは、明確な輪郭線をはっきりとさせず、ゆらゆらと揺れる心模様の反映を文章そのもので表現しているのだといえる。
そうしたことがわかってくると、この文章の持つ魅力を感じることができるようになる。

単語の復習

名詞
un théâtre, tous les soirs, un avant-scène, une tenue, un soupirant, tout, un regard, un parterre, une trentaine de, un amateur, une loge, un bonnet, des toilettes, une salle, un étage, un bijou, un visage, le spectacle, une scène, un chef-d’œuvre, une apparition, un espace, la vie, un souffle, un mot, une figure.

動詞
sortir, paraître, peu importe, arrêter, peupler, forcer, garnir, faire partie de, animer, frémir, couronner, fleurir, étinceler, connaître, illuminer, rendre, entourer.

その他
en grande tenue, quelquefois, plein, vide, peu m’importe, seulement, suranné, ou bien, radieux, indifférent à, excepté, lorsque, maussade, d’alors, bien connu, vain.

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