サン=テグジュペリ 星の王子さま Saint-Exupéry Le Petit Prince apprivoiserの実践練習

「星の王子さま」の中で、王子さまがキツネから教えてもらう最も大切な秘密は、apprivoiserという言葉で表される。
日本語にピッタリする言葉がなく、「飼い慣らす」「手なずける」「仲良しになる」「なじみになる」「なつく、なつかせる」等々、様々な訳語が使われてきた。

日本語を母語とする私たちと同じように、王子さまもapprivoiserがどういうことかわからず、キツネに質問する。
キツネの答えは、「絆を作ること(créer des liens)」。
そして、意味を説明するだけではなく、王子さまに次のように言い、apprivoiserの実践練習をしてくれる。

– S’il te plaît… apprivoise-moi ! dit-il.

「お願い・・・、ぼくをapprivoiserして!」 とキツネが言った。

 - Je veux bien, répondit le petit prince, mais je n’ai pas beaucoup de temps. J’ai des amis à découvrir et beaucoup de choses à connaître.
 - On ne connaît que les choses que l’on apprivoise, dit le renard. Les hommes n’ont plus le temps de rien connaître. Ils achètent des choses toutes faites chez les marchands. Mais comme il n’existe point de marchands d’amis, les hommes n’ont plus d’amis. Si tu veux un ami, apprivoise-moi ! – Que faut-il faire? dit le petit prince.
 - Il faut être très patient, répondit le renard. Tu t’assoiras d’abord un peu loin de moi, comme ça, dans l’herbe. Je te regarderai du coin de l’œil et tu ne diras rien. Le langage est source de malentendus. Mais, chaque jour, tu pourras t’asseoir un peu plus près…

 「いいよ。」と小さな王子さまは答えた。「でも、ぼくにはあんまり時間がないんだ。友だちを見つけないといけなし、知りたいこともたくさんあるんだ。」
 「知っているといえることは、apprivoiserしてるものだけだよ。」とキツネが言った。「人間って時間がないから、何も知らないんだ。出来合いのものをお店で買うだけ。でも、友だちを売る商人はいないから、人間にはもう友だちがいない。友だちが欲しいなら、ぼくをapprivoiserして!」— 「どうすればいいの?」と小さな王子さま。
 「とっても辛抱強くないといけない。」とキツネが答えた。「最初は、ちょっとだけぼくの近くに座るんだ。こんな風に、草の中でね。ぼくはこっそり君のことを見てみる。君は何も言っちゃだめ。言葉って誤解の素だから。でも、毎日、少しづつ近くに座ることができるようになる・・・。」

キツネの言葉からは、apprivoiserの目的とは、相手を「知る(connaître)」ことであり、「友だち(ami)」になることだということがわかる。
そして、そのために必要なことは「時間(temps)」。

みんな忙しいと言い、時間が無いと言う。すぐに出来合いのものを買ってきて、それでいいことにしてしまう。
しかし、それでは知ることもできないし、親しくなることもできない。
友だちになるためには、ゆっくりと時間をかける必要がある。
「辛抱強く(patient)」ないといけない。

王子さまがその言葉を実践するように、キツネは具体的にどうするのか教えてくれる。
最初は少しキツネから離れて座る。そして、何も言わないでいる。
キツネの方でも、王子さまがいるのに気づいているけれど、こっそり見るだけ。
そして、毎日毎日、ちょっとづつ近づいて座る。
この実践練習の手引きを伝える時、キツネは動詞をassoiras, regardras, pourrasと単純未来形を使い、軽い命令の意味を持たせている。

Le lendemain revint le petit prince.
– Il eût mieux valu revenir à la même heure, dit le renard. Si tu viens, par exemple, à quatre heures de l’après-midi, dès trois heures je commencerai d’être heureux. Plus l’heure avancera, plus je me sentirai heureux. A quatre heures, déjà, je m’agiterai et m’inquiéterai; je découvrirai le prix du bonheur ! Mais si tu viens n’importe quand, je ne saurai jamais à quelle heure m’habiller le cœur… Il faut des rites.
– Qu’est-ce qu’un rite ? dit le petit prince.
– C’est aussi quelque chose de trop oublié, dit le renard. C’est ce qui fait qu’un jour est différent des autres jours, une heure, des autres heures. Il y a un rite, par exemple, chez mes chasseurs. Ils dansent le jeudi avec les filles du village. Alors le jeudi est jour merveilleux ! Je vais me promener jusqu’à la vigne. Si les chasseurs dansaient n’importe quand, les jours se ressembleraient tous, et je n’aurais point de vacances.

次の日も小さな王子さまがやって来た。
 「昨日と同じ時間に来た方がよかったのに。」とキツネが言った。「たとえば、午後の4時に来れば、3時からぼくは幸せになり始めるはず。時間が経てば経つほど、幸せに感じるはず。4時には、もうじりじりして、心配になってくる。そうやって、幸せが貴重なものだってわかるんだ! でも、もし君が適当な時間に来るとなると、ぼくは何時に心に服を着せていいのかわらないだろ・・・。儀式ってものが必要なんだ。
 「儀式って何?」と小さな王子さまが言った。
 「それも、(apprivoiserと同じで)あまりにも忘れられていること。」とキツネは言う。「儀式のおかげで、ある一日が別の日とは違う一日になる。ある一時間が別の時間とは違う一時間になる。例えば、狩人たちには儀式がある。彼らは木曜日に村の娘たちとダンスを踊る。だから、木曜日はとっても良い日だ! ぼくはブドウ畑まで散歩に行く。もし狩人たちが適当な日にダンスをするとしたら、全ての日がみんな似てきてしまう。そしたら、ぼくには休みの日がなくなってしまう。」

規則的に同じことを繰り返すことで、自然にリズムができあがる。
キツネは、そうしたリズムが人間の幸福にとって幸せを作り出すことだと説明する。

友だちが4時に来ると決まっていれば、その時間の来るのが楽しみで心を躍らせる。来ないかもしれないと心配で、ドキドキするかもしれない。
そうした時間が「幸福の値段(prix du bonheur)」だとキツネは言う。

狩人がダンスを踊るのは木曜日。その日は狩人にとっても楽しみだが、そのおかげで、キツネも鉄砲で撃たれる心配がない。だから、素晴らしい日(jour merveilleux)になる。

キツネはこうしたリズムを「儀式(rite)」という言葉を使って説明する。
リズムができ、儀式ができるまでには一定の時間がかかる。
時間をかけることで規則性ができあがり、「自分の心に服を着せる(m’habiller le cœur)」準備をする時間が決まる。そのおめかしの時間は楽しく、特別な時間を迎える幸福感を味わわせてくれる。

ここまでがapprivoiserを実践する手引き。
王子さまは教えられた通りを実践したらしく、次に実践の結果が語られる。

Ainsi le petit prince apprivoisa le renard. Et quand l’heure du départ fut proche:
– Ah! dit le renard… Je pleurerai.
– C’est ta faute, dit le petit prince, je ne te souhaitais point de mal, mais tu as voulu que je t’apprivoise…
– Bien sûr, dit le renard.
– Mais tu vas pleurer ! dit le petit prince.
– Bien sûr, dit le renard.
– Alors tu n’y gagnes rien !
– J’y gagne, dit le renard, à cause de la couleur du blé.
Puis il ajouta:
– Va revoir les roses. Tu comprendras que la tienne est unique au monde. Tu reviendras me dire adieu, et je te ferai cadeau d’un secret.

こんな風にして、小さな王子さまはキツネをapprivoiserした。そして、出発の時が迫ってきた。
 「ああ!」とキツネが言った・・・。「ぼく、泣いてしまうかも。」
 「君が悪いんだ。」と小さな王子さま。「ぼくは君に悪いことするつもりなんかなかったし、君がapprivoiserされたいと望んだんだよ。」
 「もちろん。」とキツネ。
 「じゃ、君が得したものは何もないじゃないか!」
 「あるよ。」とキツネ。「小麦の色のおかげでね。」
そして、キツネは言葉を続けた。
 「もう一度バラに会いに行きな。そしたら、君のバラが世界でただ一つのものだってわかるよ。その後、ぼくにサヨナラを言いに戻って来て。そしたら、君に一つの秘密をプレゼントするよ。」

この一節は謎めいていて、この部分を読んだだけでは何を意味しているのよくかわからない。
なぜ、「小麦の色のおかげで(à cause de la couleur du blé)」、キツネは得るものがあったのか? 
キツネが何を得たのか?
なぜ、王子さまの星で王子さまに冷たくあたったバラが、「世界でただ一つのもの(unique au monde)」だとわかるのか?

Le petit prince s’en fut revoir les roses:
– Vous n’êtes pas du tout semblables à ma rose, vous n’êtes rien encore, leur dit-il. Personne ne vous a apprivoisé et vous n’avez apprivoisé personne. Vous êtes comme était mon renard. Ce n’était qu’un renard semblable à cent mille autres. Mais j’en ai fait mon ami, et il est maintenant unique au monde.
 Et les roses étaient bien gênées.
– Vous êtes belles, mais vous êtes vides, leur dit-il encore. On ne peut pas mourir pour vous. Bien sûr, ma rose à moi, un passant ordinaire croirait qu’elle vous ressemble. Mais à elle seule elle est plus importante que vous toutes, puisque c’est elle que j’ai arrosée. Puisque c’est elle que j’ai mise sous globe. Puisque c’est elle que j’ai abritée par le paravent. Puisque c’est elle dont j’ai tué les chenilles (sauf les deux ou trois pour les papillons). Puisque c’est elle que j’ai écoutée se plaindre, ou se vanter, ou même quelquefois se taire. Puisque c’est ma rose.

王子さまはそこを後にし、バラたちと再会した。
 「君たちはぼくのバラとは全然似ていない。君たちは今のところ何でもない。」と王子さまはバラたちに言った。  
 「誰一人君たちをapprivoiserしたことがなかったし、君たちも誰もapprivoiserしたことがなかった。君たちは今でも、ぼくの逢ったキツネが前にそうだったのと同じ。あの時には、他の数多くのキツネたちと似ている一匹のキツネにすぎなかった。でも、ぼくはそのキツネと友だちになった。だから、キツネは今では世界でただ一つの存在なんだ。」
 バラたちは居心地がわるそうだった。
 「君たちはきれいだよ。でも、空っぽ。」と彼はバラたちにもう一度言葉をかけた。「誰も君たちのために死にはしない。もちろん、ぼくのバラだって、通りがかりの普通の人が見たら、君たちと似ているように思うはず。でも、一本だけで、君たちみんなよりもずっと大切なんだ。だって、ぼくが水をあげたのは、このバラだから。ぼくが世話をしたのは、このバラだから。ぼくが衝立で風から守ったのは、このバラだから。ぼくが毛虫を殺してあげたのは、(ただし、チョウチョになるように2,3匹は除いて)、このバラだから。ぶつぶつ文句を言い、自慢し、時には黙り込んだりするのに、ぼくが耳を傾けたのは、このバラだから。これがぼくのバラだから。」

客観的に見れば、ある物は他の物と比べて特別な存在ではない。
それが特別な存在になるとしたら、自分が目をかけ、手をかけ、内的な時間を共に過ごし、特別な関係が出来上がった時。その時、ごくありふれたものが、私にとって、世界でただ一つのものになる。

王子さまは、自分のバラが他の人から見たら、他のバラと同じように見えることを知っている。
だからこそ、そのバラが彼にとって世界でただ一つのバラになった理由を、puisqueという言葉を幾つも重ねることで情熱的に説明する。
好きなものの話をするとき、人は誰でもこんな風になるだろう。
それは、王子さまがキツネをapprivoiserし、その経験から類推して、自分のバラも実はapprivoiserしていたことを自覚したからである。

その後、王子さまはキツネに言われた通り、キツネのもとに戻ってくる。

Et il revint vers le renard:
– Adieu, dit-il…
– Adieu, dit le renard. Voici mon secret. Il est très simple: on ne voit bien qu’avec le cœur. L’essentiel est invisible pour les yeux.
– L’essentiel est invisible pour les yeux, répéta le petit prince, afin de se souvenir.
– C’est le temps que tu as perdu pour ta rose qui fait ta rose si importante.
– C’est le temps que j’ai perdu pour ma rose… fit le petit prince, afin de se souvenir.
– Les hommes ont oublié cette vérité, dit le renard. Mais tu ne dois pas l’oublier. Tu deviens responsable pour toujours de ce que tu as apprivoisé. Tu es responsable de ta rose…
– Je suis responsable de ma rose… répéta le petit prince, afin de se souvenir.

彼はキツネの方に戻ってきた。
 「さよなら。」と彼は言った・・・。
 「さよなら。」とキツネは言った。「ぼくの秘密はこういうこと。とっても簡単。ものをよく見るためには心で見ること。本当に大切なことは目には見えない。」
 「本当に大切なことは目には見えない。」と小さな王子さまは繰り返した。思い出せるように。
 「君が君のバラのために失った時間のおかげで、君のバラがこんなに大切なものになる。」
 「ぼくがぼくのバラのために失った時間のおかげで・・・」と小さな王子さまは言った。思い出せるように。
 「人間はこの真実を忘れてしまったんだ。」とキツネは言った。「でも、君は忘れないはず。君はこれから永久に、apprivoiserしたものに責任を持つようになる。君は君のバラに責任がある・・・。」
 「ぼくはぼくのバラに責任がある・・・」と小さな王子さまは繰り返した。思い出せるように。

この一節では、王子さまはキツネの言葉をほぼ反復する。
1)L’essentiel est invisible pour les yeux. 大切なことは目には見えない。
2)C’est le temps que j’ai perdu pour ma rose. ぼくがぼくのバラのために失った時間。
3)Je suis responsable de ma rose. ぼくはぼくのバラに責任がある。

反復の理由は、「思い出せるように(afin de se souvenir)」するため。
キツネの教えを王子さまが思い出せるようにという主旨だが、もちろん、『星の王子さま』の読者がこの文を思い出せるようにするためでもある。

大切なものは目には見えない。だから、心を使い、心の目でみないといけない。
時間を失ったと思っても、実はそれは時間をかけることであり、手をかけ、目をかけ、心を尽くすこと。決して時間を失うわけではない。
一度関係が出来上がったら、相手に対して責任を持たないといけない。「永久に(pour toujours)」。

apprivoiserとは「絆を作る(créer des liens)」こと。
キツネと王子さまは、どうすれば絆ができ、友だちになることができるのか、具体的に例を示しながら教えてくれる。が、それだけではなく、その結果に責任を持つことまでも伝えている。
最後の点は、「大切なことは目には見えない。」というよく知られた言葉の陰で、比較的忘れられてるのではないだろうか。
だから最後に繰り返しておこう。「思い出せるように。(afin de se souvenir)」。