口に心地よいフランス詩 ヴェルレーヌ  « À Clymène »

日本語でも、フランス語でも、詩では音楽性が重視され、耳に気持ちのいい詩は、日本語でもフランス語でも数多くある。
では、口に気持ちのいい詩はどうだろう? 声に出して読むと、口が気持ちいいと感じる詩。

言葉を発声する時、日本語では口をあまり緊張させないが、フランス語では口を緊張させ、しっかりと運動させる。
そのために、詩の言葉を口から出した時、とても気持ちよく感じられる詩がある。
その代表が、ポール・ヴェルレーヌの« À Clymène ». 声を出して詩句を読むと、本当に口が気持ちよくなる。
https://bohemegalante.com/2019/03/05/verlaine-a-clymene/

実際に詩を声に出して読む前に、口の緊張について確認しておこう。

日本語を母語とする者にとって、日本語とフランス語の口の緊張の違いが一番よくわかるのは、「イ」の音。
「ア・イ」といいながら口を意識すると、口の形がそれほど変わらず、ほとんど力が入っていないことがわかる。
それに対して、フランス語の[ i ]では、口に力を入れ、思い切り横に引っ張る。とても力が入り、緊張している。
テレビでアナウンサーが話すのを見る時、口が真一文字になっていることに気づくことがあるほど。

[ 0 ]や[ A ]は、日本語の「オ」「ア」よりも口が大きく開き、口が丸くなっている。例えば、[ O ]の発音。

« À Clymène »では、口が横に緊張したり、丸みを帯びたりする音が連続している。
音の正確さを意識するよりも、口の緊張を楽しむ気持ちで、最初の4行を口に出してみよう。

その際、6/6/6/4と手で拍子を打ちながら読むと、詩句のリズムを掴むことができる。

Mystiques barcarolles,    ゴンドラ乗りの不思議な歌、
Romances sans paroles,   歌詞のない恋の歌、
Chère, puisque tes yeux,   愛しい女(ひと)よ、
Couleur des cieux,      あなたの目が空の色だから、

Mystiquesでは、[ i ]の音が続き、barcarollesでは、[ a ] から [ o ]へと口が開き、丸みを帯びる。
mystiques barcarollesと口に出すだけで、口が気持ちよくなってこないだろうか。

[ o ]による丸い口の形は、Romances, parolesでも繰り返される。
さらに、romancesの中の鼻母音[ ɑ̃ ]が、sansでも反復され、共鳴する。

これを見ただけで、ヴェルレーヌがどれほど工夫して詩句の音楽性を作り出しているかがわかるだろう。
その結果できた詩句は、朗読を聞くととても美しく感じる。


しかし、それ以上に、詩句を声を出して読んでみると、口に心地良い。
[ i ]と[ o ]と鼻母音だけでもいいので、緊張、丸み、振動を意識して、以下の詩句を読んでみよう。

Mystiques barcarolles,    ゴンドラ乗りの不思議な歌、
Romances sans paroles,   歌詞のない恋の歌、
Chère, puisque tes yeux,   愛しい女(ひと)よ、
Couleur des cieux,      あなたの目が空の色だから、

Puisque ta voix, étrange   あなたの声が、奇妙な姿に見え、
Vision qui dérange      私の理性の水平線を、
Et trouble l’horizon      混乱させ、
De ma raison,        掻き乱すから、

Puisque l’arôme insigne  あなたの白鳥の青白さは
De ta pâleur de cygne  特別な芳香を放つから、
Et puisque la candeur  あなたの香りは
De ton odeur,  純真だから、

Ah ! puisque tout ton être,   ああ! あなたの存在全体が、
Musique qui pénètre,     突き抜ける音楽であり、
Nimbes d’anges défunts,   亡くなった天使たちの後光であり、
Tons et parfums,       音であり、香りだから、

A, sur d’almes cadences   心地よいテンポに乗せて、
En ses correspondances   すべてが対応する世界へと
Induit mon cœur subtil,    私のか細い心を導いてくれた。
Ainsi soit-il !         そうあれかし!

ピアノを弾ける人であれば、フォーレの作曲したメロディーを弾きながら、歌ってみるのもいいだろう。

詩は耳の快楽であると同時に、口の快楽なのだ。

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