マルスリーヌ・デボルド=ヴァルモール 「サアディのバラ」 Marceline Desbordes-Valmore « Les roses de Saadi »  

19世紀のフランスにおいて、女性が詩人として生きることは決して容易なことではなかった。
そうした時代にあって、批評家サント・ブーヴをはじめ、ボードレールやヴェルレーヌたちがこぞって賞賛した女性詩人がいる。それが、マルスリーヌ・デボルド=ヴァルモール(Marceline Desbordes-Valmore: 1786 – 1859)だ。

日本でも、中原中也が昭和12年(1937年)、彼女の魅力を次のような言葉で紹介している。

ヴァルモオル夫人の詩は、身を切るような鋭い感受性から生まれた叫びや呻(うめ)きである。彼女には、詩の技術というものがほとんどなく、教養も十分ではなかった。しかし、音楽やリズムに対しては優れた感覚を持っており、読む人の心をつかむ表現力も備えていた。

この中也の言葉は、それまでフランスで語られてきた彼女への批評を集大成したようなものだが、要するに「豊かな音楽性と素直な表現で、聴く者の心をダイレクトに打つ」ということだろう。

その真骨頂とも言える実例として、今回は彼女の代表作 « Les roses de Saadi »(サアディのバラ)を取り上げたい。フランス語の詩句が持つえもいわれぬ音楽性を味わいながら、マルスリーヌ・デボルド=ヴァルモールが紡ぎ出した詩の世界を、少しのぞいてみることにしよう。

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