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フィリップ・ジャコテ(Philippe Jaccottet)は、俳句から強いインスピレーションを受け、簡潔で直接的な言葉によって、山川草木や鳥や虫、季節の移り変わりを歌った。
『アリア(Airs)』 と題された詩集の冒頭に置かれた« Fin d’hiver(冬の終わり)»では、決して具体的な事物が描かれているわけではない。しかし、ジャコテの詩の根本に流れる通奏低音を私たちに聞かせてくれる。
まず、« Fin d’hiver »の最初の詩の第1詩節に耳を傾けてみよう。
Peu de chose, rien qui chasse
l’effroi de perdre l’espace
est laissé à l’âme errante
ほとんど何も無い 無が追い払うのは
空間を失うという恐怖
それが残されるのは 彷徨う魂
2行目の« l’effroi »(恐怖)は、1行目の« chasse »(追い払う)の目的語とも考えられるし、3行目の« est laissé »(残される)の主語とも考えられる。
そのどちらか(ou)というよりも、どちらでもある(et)と考えた方がいいだろう。
また、« rien qui chasse l’effroi …»(恐怖を追い払う無)という同格の表現によって補足された« peu de chose »(ほとんど何もない)が、«est laissé »の主語と考えることもできる。
このように、わずか三行の詩句が、巧みな構文上の工夫を施されることで、複数の解釈の可能性を生み出している。
そのことは、わずか17音で構成される俳句が、単純な事実の描写を超えて、深い人間的な真実を捉える可能性を持つことと対応していると考えてもいいだろう。