ヴィクトル・ユゴー 「橋」  Victor Hugo Le Pont 深淵での祈り La prière dans l’abîme

2024年12月7日、パリ・ノートルダム大聖堂再開の式典が行われた。
その式典の中で、ヴィクウトル・ユゴー(Victor Hugo)の「橋」(Le Pont)が、ヨーヨー・マ(Yo-Yo Ma)のチェロ演奏をバックに、女優マリオン・コティヤール(Marion Cotillard)によって朗読された。

「橋」は、ユゴーが1856年に発表した「静観詩集(Les Contemplations)」の第六部「無限の縁で(Au bord de l’Infini)」の冒頭に置かれた詩。
深淵(L’abîme)の闇(les ténèbres)に包まれた人間が、その中でも神(Dieu)をおぼろげに目にし、祈り(la prière)を捧げるといった内容を詠っている。

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ヴィクトル・ユゴー 「魔神たち」 Victor Hugo « Les Djinns » 詩法を駆使した詩句を味わう 2/2

第9詩節(1行8音節)になると、魔神たち(Djinnns)は悪魔(démons)と見なされ、私(je)は予言者(Prophète)に救いを求める。

その予言者とは、「魔神たち」が含まれる『東方詩集(Les Orientales)』の中では、マホメットのことだと考えられている。
また、「私(Je)」は剃髪(chauve)なのだが、それはメッカに向かう巡礼者たちが出発前に髪の毛を剃る習慣を前提にしている。
「魔神たち」の背景にあるのは、『千一夜(アラビアン・ナイト』の世界なのだ。

Prophète ! si ta main me sauve
De ces impurs démons des soirs,
J’irai prosterner mon front chauve
Devant tes sacrés encensoirs!
Fais que sur ces portes fidèles
Meure leur souffle d’étincelles,
Et qu’en vain l’ongle de leurs ailes
Grince et crie à ces vitraux noirs!

予言者よ! お前の手が私を救ってくれるなら、
夕方にやってくる不純な悪魔たちから、
私は剃髪の頭を地面にこすりつけよう、
お前の神聖な香炉の前で!
なんとなかして、この忠実な扉の上で、
消してくれ、奴らの火花散る息吹を。
なんとかして、空しいものにしてくれ、奴らの翼の爪が
ギシギシと音をたてようとも、そして、この暗いステンドグラスの窓で叫び声を上げようとも!

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ヴィクトル・ユゴー 「魔神たち」 Victor Hugo « Les Djinns » 詩法を駆使した詩句を味わう 1/2

ヴィクトル・ユゴー(1802-1885)。日本では『ノートル・ダム・ド・パリ』や『レ・ミゼラブル』の作者として知られているが、ロマン主義を代表する詩人であり、フランスで最も偉大な詩人は誰かという質問に対して、ユゴーの名前を挙げる人も数多くいる。

無限ともいえる彼の詩的インスピレーションは驚くべきものだが、それと同時に、詩法を駆使した詩句の巧みさにも賛嘆するしかない。
そのことを最もよく分からせてくれるのが、« Les Djinns »(魔神たち)。

8行からなる詩節が15で構成されるのだが、最初の詩節の詩句は全て2音節、2番目の詩節の詩句は全て3音節。そのように一音節づつ増えていき、第8詩節では、10音節の詩句になる。その後からは、詩句の音節数が規則的に減り始め、最後は2音節の詩句に戻る。
つまり、詩句の音節数は、2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 10, 8, 7, 6, 5, 4, 3, 2と、規則的に増減する。

詩の内容も音節数の増減に対応する。
死んだ様な港町から始まり、一つの音が聞こえる。続いて、音節の数の増加に応じて音の大きさが徐々に強まり、10音節の詩句が構成する第8詩節で最も強くなる。
その後、8音節、7音節と減少していくにつれて、音も収まっていく。

ユゴー以外に誰がこれほどの詩的テクニックを駆使できるだろう。どんな詩人も彼と肩を並べることなどできない。
そのことは、第1詩節を見るだけですぐに分かる。8行全てが2音節の詩句で、韻を踏んでいる。 (しかも、ABABCCCBという韻の連なりは、15の詩節全てで繰り返される。)

Les Djinns

Murs, ville,
Et port,
Asile
De mort,
Mer grise
Où brise
La brise,
Tout dort.

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ヴィクトル・ユゴー オランピオの悲しみ Victor Hugo Tristesse d’Olympio ロマン主義の詩を味わう 5/5

第29詩節に至り、神の存在に言及され、神こそが全てを統括しているような印象を与える詩句から始まる。
ちなみに、これ以降の詩節では、基本的に動詞は現在形に置かれ、過去の出来事の思い出ではなく、時間の経過とともに全てが消滅してしまうことに関する考察が展開されていく。

« Dieu nous prête un moment // les prés et les fontaines,
Les grands bois frissonnants, // les rocs profonds et sourds
Et les cieux azurés // et les lacs et les plaines,
Pour y mettre nos coeurs, // nos rêves, nos amours ;

« Puis il nous les retire. // Il souffle notre flamme ;
Il plonge dans la nuit // l’antre où nous rayonnons ;
Et dit à la vallée, // où s’imprima notre âme,
D’effacer notre trace // et d’oublier nos noms.

(朗読は、8分56秒から)

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ヴィクトル・ユゴー オランピオの悲しみ Victor Hugo Tristesse d’Olympio ロマン主義の詩を味わう 4/5

第19-20詩節では、かつて愛し合った思い出の地に別の恋人たちがやって来て、彼らの思い出は別の思い出に上書きされてしまうことに対する悲しみが表現される。

« Oui, / d’autres à leur tour // viendront, couples sans tache,
Puiser dans cet asile // heureux, calme, enchanté,
Tout ce que la nature // à l’amour qui se cache
Mêle de rêverie // et de solennité !

« D’autres auront nos champs, // nos sentiers, nos retraites ;
Ton bois, ma bien-aimée, // est à des inconnus.
D’autres femmes viendront, // baigneuses indiscrètes,
Troubler le flot sacré // qu’ont touché tes pieds nus !

(朗読は6分6秒から)

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ヴィクトル・ユゴー オランピオの悲しみ Victor Hugo Tristesse d’Olympio ロマン主義の詩を味わう 3/5

独白は、これまでの状況をオランピオ自身の言葉で語り直すところから始まる。当然、そこでは、「私(je)」が主語になる。

— « O douleur ! / j’ai voulu, // moi dont l’âme est troublée,
Savoir / si l’urne encor // conservait la liqueur,
Et voir ce qu’avait fait //cette heureuse vallée
De tout ce que j’avais // laissé / là de mon coeur !

「ああ、苦しい! 私は望んだ、魂の掻き乱されている私は、
知ることを望んだ、あの瓶がまだ水を保っているかどうか、
見ることを望んだ、あの幸福だった谷間が、
どのようしたのか、私がかつて残した私の心にかかわる全てのものを。

(朗読は2分50秒から)

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ヴィクトル・ユゴー オランピオの悲しみ Victor Hugo Tristesse d’Olympio ロマン主義の詩を味わう 2/5

第3詩節は単純過去の動詞(il voulut)から始まり、オランピオが次の行為を行うことが示される。
そして、その際にも、ユゴーの思想の中で大きな意味を持つ言葉が使われる。
その言葉とは、「全て(tout)」。
ユゴーの世界観の中では、超自然の存在も、人間も、動物や植物、鉱物も含め、「全て」が一つの自然を形成している。

Il voulut tout revoir, // l’étang près de la source,
La masure /où l’aumône // avait vidé leur bourse,
Le vieux frêne plié,
Les retraites d’amour // au fond des bois perdues,
L’arbre / où dans les baisers // leurs âmes confondues
Avaient tout oublié !

(朗読は55秒から)

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ヴィクトル・ユゴー オランピオの悲しみ Victor Hugo Tristesse d’Olympio ロマン主義の詩を味わう 1/5

1840年に発表されたヴィクトル・ユゴー(Victor Hugo)の詩集『光線と日陰(Les Rayons et les Ombres)』に収められた「オランピアの悲しみ(Tristesse d’Olympia)」は、ユゴーの数多い詩の中でも代表作の一つと見なされてきた。

その詩の中でユゴーは、恋愛、自然、時間の経過、思い出、憂鬱といったテーマを、彼の超絶的な詩法に基づいて織り上げられた詩句を通して美しく歌い上げる。

前半は、六行詩が8詩節続き、オランピオ(詩人=ユゴー)と自然との交感が描写される。
後半では、四行詩が30詩節からなる、オランピオの独白が綴られる。

全部で168行に及ぶ長い詩だが、1820年に発表されたラマルティーヌ(Lamartine)の「湖(Le Lac)」とこの詩を読むことで、フランスロマン主義の抒情詩がどのようなものなのか理解できるはずである。
https://bohemegalante.com/2019/03/18/lamartine-le-lac/

まず、第1詩節を読んでみよう。

Tristesse d’Olympio

Les champs n’étaient point noirs, / les cieux n’étaient pas mornes.
Non, le jour rayonnait / dans un azur sans bornes
Sur la terre étendu,/
L’air était plein d’encens / et les prés de verdures
Quand il revit ces lieux / où par tant de blessures
Son coeur s’est répandu !

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ヴィクトル・ユゴー 「エクスターズ」 『東方詩集』 Victor Hugo « Extase »  Les Orientales 

1802年に生まれ1885年に83歳で死んだヴィクトル・ユゴーが、フランス・ロマン主義文学の中心であったことに異論の余地はない。
1820年代にはすでにロマン主義を先導する詩人、劇作家だった。
また、現在でもよく知られている『ノートル・ダム・ド・パリ』や『レ・ミゼラブル』の作者でもある。

そうしたユゴーの創作活動は、簡潔にまとめるにはあまりにも膨大であるが、ここでは1829年に出版された『東方詩集(Les Orientales)』に収録された「エクスターズ(Extase)」を読み、ユゴーの詩の本質がどこにあるのか考えみよう。

最初の出版物である『オード集(Odes et Poésies diverses)』(1822)の「序文(Préface)」には、次のような一節が見られる。

 Au reste, le domaine de la poésie est illimité. Sous le monde réel, il existe un monde idéal, qui se montre resplendissant à l’œil de ceux que des méditations graves ont accoutumés à voir dans les choses plus que les choses.

詩の領域は果てしない。現実世界の下には、理想の世界がある。その理想の世界は、大切なことをずっと瞑想し、事物の中に事物を超えたものが見えている人々の目には、光輝いた姿を現している。

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ヴィクトル・ユゴー 「パン」 Victor Hugo « Pan » フランス・ロマン主義の神 2/2

Isis allaitant Harpocrate

パン(Pan)の語源となるギリシア語は、「全て」を意味する。
そのパンが、キリスト教の神(Dieu)の行為を最初に明かす。
そこには、キリスト教と古代ギリシアの神々を崇める異教とを融合する諸教混合主義(syncrétisme)を見てとることができる。

C’est Dieu qui remplit tout. Le monde, c’est son temple ;
Œuvre vivante, où tout l’écoute et le contemple.
Tout lui parle et le chante. Il est seul, il est un.
Dans sa création tout est joie et sourire.
L’étoile qui regarde et la fleur qui respire,
Tout est flamme ou parfum !

神が全てを満たした。世界は神の神殿。
生命を持つ作品。そこでは、全てが神の声を聞き、姿を見つめる。
全てが神に話しかけ、神を歌う。神は一人、神は唯一の存在。
神の創造において、全ては喜びであり、微笑み。
見つめる星、息づく花、
全ては炎、あるいは香り!

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