ピエール・ド・ロンサール ルネサンスの抒情詩と天球の音楽 2/2

ピエール・ド・ロンサール(1524-1585)の大きな功績は、ルネサンスの時代に、新しい形の抒情詩を導入し、定着させたことだった。
すでに記したように、抒情詩(poésie lyrique)とは本来、lyre(竪琴)の伴奏で歌われることを前提にしており、音楽的な要素が強いもの。ロンサールの抒情詩は、感情の動きを伝える詩であると同時に、声に出して歌われることも多かった。

実際、1552年の『恋愛詩集(Les Amours)』には、クレマン・ジャヌカンやピエール・セルトンといった優れた作曲家による楽譜が付けられていた。
1560年代からはロンサールの詩に曲を付けることが盛んに行われ、何人かの作曲家はロンサールの詩だけを集めた曲集を発表した。オード「可愛い人よ、見に行こう、バラの花は」も、ギヨーム・コストレーやジャン・ド・カストロたちによって作曲されている。
結局、1570年代を頂点に16世紀末まで,約30人の作曲家がロンサールの200篇以上の詩に曲を付けることになった。

こうした音楽的な側面は、ルネサンスの時代精神と深く関係していた。
人間が奏でる音楽の理想は、「天球の音楽」の「模倣」であり、天空の純粋な諧調(ハーモニー)を地上に響かせることだったと考えられるからである。

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ピエール・ド・ロンサール ルネサンスの抒情詩と天球の音楽 1/2 フランス語の擁護と顕揚

ピエール・ド・ロンサールは、16世紀フランスにルネサンス文化が開花した時代に活躍した詩人。
1550年頃に人文主義者や詩人たちで形成された「プレイアッド派」と呼ばれるグループを主導、フランス語の充実と新しいタイプの詩の確立に力を尽くし、「詩人たちの王」と呼ばれるほど絶大な人気を博した。

1524年に生まれたロンサールは、フランソワ1世の治世(1515-1547)に青春時代を送り、実際に活動を始めたのはアンリ2世の時代(1547-1559)。イタリアから移入されたルネサンス文化がフランスに根付き、一つの頂点を迎えようとしていた。
その象徴ともいえるのが、アンリ2世の愛妾ディアーヌ・ド・ポワチエ。
王が彼女に与えたシュノンソー城、彼女を描いたフォンテーヌブロー派の絵画、それらの洗練された美が、国力の充実と上昇した文化水準をはっきりと示している。

今の日本では、ピエール・ド・ロンサールという名前は、バラの品種として知られている。
その名称は、彼の最も有名な詩「可愛い人よ、見に行こう、バラの花は(Mignonne, allons voir si la rose)」に由来する。

そのバラの花に見られるような優雅で上品な美しさを持つロンサールの詩は、とりわけ音楽的な要素によって、ルネサンス文化の大きな花の一つになった。

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ロンサール 「あなたが年老い、夕べ、燭台の横で」 Pierre de Ronsard « Quand vous serez bien vieille, au soir, à la chandelle » 

Pierre de Ronsard

ピエール・ド・ロンサールが1587年に発表した『エレーヌのためのソネット集(Sonnets pour Hélène)』には、とても皮肉な恋愛詩が収められている。
それが、「あなたが年老い、夕べ、燭台の横で」。

このソネットのベースに流れているのは、「今を享受すること」を主張する思想。だからこそ、詩人は、自分の愛に応えて欲しいと、愛する人に願う。

ロンサールは、ソネットの二つのカトラン(四行詩)と最初のテルセ(三行詩)の中で、動詞の時制が未来形に置かれ、「あなたが年老いた時」のことを描き出す。その時には、あなたの美は失われ、暗い夕べの中で過去を懐かしみ、後悔するだろう、と。

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Carpe diem カルペ・ディエム 今を生きる

Rose Pierre de Ronsard

Carpe diem(カルペ・ディエム)とは、ラテン語で、「今日という日(diem)を摘め(carpe)」の意味。
そこから、「今を生きる」とも言われる。

この言葉は、古代ローマの詩人ホラティウスの詩の一節に由来し、二つの意味に解釈されることがある。

(1)今を充実させて生きる。
その意味では、Carpe diemは、「今を生きる」ことを勧める格言と解釈できる。

(2)後先を考えるよりも、今のことだけを考える。
この場合、後先のことを考えず、今さえよければいいといった、短絡的で快楽主義的な考え方の表現として解釈していることになる。

実は、Carpe diemと似た表現がラテン語にある。
collige, virgo, rosas
摘め、乙女よ、バラを。
この詩句で摘むものは、日ではなく、バラの花。

では、美しいバラの花を摘む幸せを手に入れるためには、Carpe diemを、(1)か(2)の、どちらの解釈をする方がいいのだろう。

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ピエール・ド・ロンサールのシャンソン ルネサンス期の音楽

16世紀のプレイアッド詩派の詩はしばしばメロディーをつけて歌われた。

ピエール・ド・ロンサールの「女性を飾る自然」« Nature ornant la dame »。
ポリフォーニーで歌われている。

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ロンサール 「愛しい人よ、さあ、バラを見に行こう」Ronsard « Mignonne, allons voir si la rose » 今をつかめ Carpe Diem

16世紀を代表する詩人ピエール・ド・ロンサールの詩「愛しい人よ、さあ、バラを見に行こう。」« Mignonne, allons voir si la rose »は、フランス詩の中で最も有名なものの一つ。

その恋愛詩のベースになるのは、「時間が過ぎ去り、戻ってこないこと」というテーマである。そして、過ぎゆく「今」という時を捉えよという、Carpe Diem(今をつかめ)の思想が美しく表現されている。

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