ヴィクトル・ユゴー 「この花をあなたのために摘みました」 Victor Hugo « J’ai cueilli cette fleur pour toi… » 人間と自然と愛と

「この花をあなたのために摘みました」(« J’ai cueilli cette fleur pour toi… »)は、ヴィクトル・ユゴーが愛人のジュリエット・ドルエに捧げた詩。
詩の最後に、「サーク島、1855年」と記されているが、原稿は1852年の日付があり、詩の背景となったのは、ユゴー一家が亡命したばかりのジャージー島だと思われる。

ユゴーは、その島の中を散策し、海に突き出た岬で見つけた花を詩の中心に据え、ジュリエットへの愛を歌った。

その詩の中で描かれる自然は、ユゴーの世界観を密かに垣間見させてくれる。

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ビル・エヴァンス パリ 1972年  Bill Evans in Paris 1972

信じられないとしか言いようがないが、1972年にパリで演奏するビル・エヴァンスの姿が、youtubeにアップされている。
ベースはエディー・ゴメス、ドラムスはマーティー・モレル。

Maison de la Radioで2月に録音された演奏は、Bill Evans Live in Paris 1972という題名で、3枚のレコードで発売されていた。
レコードのジャケットがいかにもフランスっぽい。Francis Paudrasのデザインだという。

今、LPレコードを3枚買うと、値段は3万円を超えたりする。CDでも1万円くらい。それがyoutubeではタダ。ありがたい時代だと痛感。

ヴィクトル・ユゴー 「若い時の古いシャンソン」 Victor Hugo « Vieille chanson du jeune temps » 初恋の想い出と恋する自然 ロマン主義から離れて

1802年に生まれ、1885年に死んだヴィクトル・ユゴーは、19世紀の大半を生き、『ノートルダム・ド・パリ』や『レ・ミゼラブル』といった小説だけではなく、数多くの芝居や詩を書き、フランスの国民的作家・詩人と考えられている。

「若い時の古いシャンソン(Vieille chanson du jeune temps)」は、1856年に出版された『瞑想詩集』に収められ、1820年代に始まったフランス・ロマン主義に基づきながら、その終焉を告げ、新しい時代の感性を示している。

また、その詩の中では自然が恋愛と関連して重要な役割を果たしているが、その感性は、日本的な自然に対する感性とはかなり違っている。自然を巡る二つの感性を知る上でも、「若い時の古いシャンソン」は興味深い詩である。

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Summertime サマータイム

「サマータイム」は、ジョージュ・ガーシュインの1935年のオペラ「ポギーとベス」の冒頭で歌われる曲。生まれたばかりの赤ん坊にクララが歌いかけるブルース調の子守歌。
1920年代のアメリカの黒人たちの悲惨な生活を背景に、子どもの成長を祈る歌詞が綴られている。

1936年、ビリー・ホリデーによって歌われ、ジャズの曲として人気を博した。
ここではノラ・ジョーンズのピアノと歌で聴いてみよう。

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I loves you, Porgy 愛するポーギー

« I loves you, Porgy »は、1935年にジョージ・ガーシュインが作曲したオペラ「ポーギーとベス」の中の曲。
作詞はジョージの兄アイラ・ガーシュウィンと、オペラの原作になった小説「ポーギー」の作者デュボース・ヘイワード。
ちなみに、 lovesの活用の最後に «s »がついているのは、黒人の話す英語であることを意図したものだという。

オペラだけではなく、ジャズでもよく取り上げられる。
まず、ニーナ・シモンの歌で聴いてみよう。
しっとりとしながら、声に独特の個性があり、いかにもジャズ・バラードっぽい。

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マラルメ 「それ自身の寓意的ソネ」 Mallarmé « Sonnet allégorique de lui-même » マラルメの詩法(2/2)

1887年に出版された「純粋なその爪が」(«Ses purs ongles»)には、それ以前に書かれた原形の存在が知られている。
1868年7月、友人のアンリ・カザリスに宛てて送られた、「それ自身の寓意的ソネ」(« Sonnet allégorique de lui-même »)である。

実際、二つの詩の間では共通の単語が用いられ、構文が類似している詩句もある。しかし、その一方で、違いも大きい。
マラルメの初期の時代の詩法を知り、後期の詩法との違いを知ることは、19世紀後半のフランス詩全体の動きを知る上でも興味深い。

幸い、1867年の詩に関しては、マラルメのいくつかの証言が残されている。それに基づきながら、彼が何を考え、どのように表現したのか、探っていこう。

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マラルメ YXのソネ 「純粋なその爪が・・・」  Mallarmé, Sonnet en YX  « Ses purs ongles … » マラルメの詩法(1/2)

マラルメの詩は難しくて、何を意味しているのかわからないことが多くある。
その一方で、声に出して読むと、大変に美しい。

この特色は、一つの視点から見ると、日本の書道に似ている。
しばしば書いてある文字が何を意味しているのか分からない。
しかし、文字の映像としては、とても美しい。

西本願寺本三十六人家集、源重之集

例えば、平安時代に流行した和歌集冊子「西本願寺本三十六人家集、源重之集」の一部を見てみよう。
四季の草花や風景を繊細に描いた文様を施された料紙に、仮名文字で和歌が綴れている。

えだわかぬ はるにあへども むもれ木は
もえもまさらで としへぬるかな

現代の私たちはこの仮名文字をほぼ読むことができないが、とても美しいと感じる。意味でははく、文字の造形性が、美を生み出している。

マラルメの詩句では、文字の映像ではなく、音楽性が美を生み出す主要な要素として機能する。

こうした美のあり方を前提にして、マラルメが自己の詩法を表現したと見做される、YX(イクス)のソネ「純粋なその爪が」の読解にトライしてみよう。

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Chûya Nakahara « Os »

De « Os », Kobayashi Hidéo, meilleur et pire ami de Chûya Nahahara, a fait un éloge et a affirmé que ce poème se compose uniquement de paroles de chant, dépouillé des artifices de la poésie moderne : combinaison compliquée d’images mentales, adjectifs de haute couleur, habile utilisation de mots particuliers et sensitifs, efforts pour saisir l’insaisissable, etc.

Ailleurs, Kobayashi disait que c’était un poème de la jeunesse, et non pas celui de l’enfance. 

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ランボー 「永遠」 Rimbaud « L’Éternité »

誰もが望みながら、どうやっても到達できない永遠。ランボーはその永遠を容易に見つけてしまう。
彼はいとも簡単に言う。「永遠がまた見つかった!」と。

1872年、彼はヴェルレーヌと一緒にあちこち放浪していた。
そして、腹が減ったとか(「飢餓のコメディ」)、我慢しよう(「忍耐祭り」)といった気持ちを、歌うようにして詩にした。

「永遠」もそうした詩の一つ。
その後、『地獄の季節』(1873)の中で、「言葉の錬金術」によって生み出された詩として歌われることになる。

Elle est retrouvée !
Quoi ? l’éternité.
C’est la mer mêlée
   Au soleil.

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