ギュスターヴ・フロベール 新しい現実の創造 1/4 フロベールの生涯と時代精神

ギュスターブ・フロベールは、シャルル・ボードレールが詩の世界で行った革新を、小説に関して行った作家だといえる。
二人は1821年に生まれ、出版活動を本格的に開始したのは1850年代。そして、1857年には、社会の風紀を乱すという理由で、フロベールは『ボヴァリー夫人』が、ボードレールは『悪の華』が、裁判にかけられた。

そうした共通点に以上に大きな意味を持つのは、「新しい詩」、「新しい小説」の第一歩を記したこと。
フロベールに関して言えば、「文体=文章」にこだわり、韻文と同じレベルの構築物にまで散文の完成度を高めることで、現実世界に従属しない「新しい現実」を作り出そうとした。

通俗的な解説の中で、フロベールは、19世紀フランスの社会と人間をありのままに描く写実主義(リアリズム)の代表的な作家と定義されることがある。フロベールがリアリズムを嫌悪していたにもかかわらず、彼の意に反するレッテルが貼られ続けていることは、彼の言葉が生み出した「新しい現実」が、実際の現実を再現した写実よりも、さらにリアルであることを示している。

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歌のちから ー 外国語学習から詩の観賞まで

私たちは好きな歌を何度も聴く。歌詞はすでに知っていて、聞く前から言葉の意味はわかっている。それにもかかわらず、何度聴いても飽きることがない。
その理由はどこにあるのだろう?

ある研究によると、言葉をほとんど話すことができない子どもでも歌を聞いてある程度反復できるが、しかし歌詞だけを取り出すことは難しいという。

歌は、「メロディー」「リズム」「調性」「歌詞」「音色」などの要素から構成される。
実験に参加した2歳の子どもたちは、「メロディー」は上手でなくても「リズム」に乗って「歌詞」を口ずさむけれど、「歌詞」の「言葉」だけを話すように頼むと途端に発音できなくなった。
この実験が教えてくれるは、歌詞の意味がわからなくても、音楽と一緒であれば言葉の音声を記憶できる、ということである。

母語を習得する過程においても、幼児は身近な大人たちの音声を聞き、聞こえた音を反復する。
言語に「表現(文字、音声)」と「内容(意味)」という2つの側面があるとすると、最初に反復の対象になるのは「音」にすぎない。
それが「意味」と繋がるのは、「マンマ」という音の塊が、食べ物と連動することを記憶した時でしかない。
まず「音」があり、次に「意味」が来る。

このようなことを考えると、言語における「音」の重要性がはっきりと理解できる。

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Charles Aznavour «La Bohême» シャルル・アズナヴール 「ラ・ボエーム」

Charles Aznavourの« La Bohême »は、日本のシャンソン歌手にとりわけ好まれ、日本でも数多く取り上げられてきた。
2022年の北京オリンピックのフィギュア・スケートで、ネイサン・チェン(Nathan Chen)のショートプログラムの演技を見ていたら、« La Bohême »がバックに流れていて、しかも ネイサン・チェンの手の動きがアズナヴールの手の動きを思わせる部分があり、ちょっとびっくり!

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Céline Dion « Pour que tu m’aimes encore » セリーヌ・ディオン 「愛をふたたび」 (If that’s what it takes)

セリーヌ・ディオンは映画「タイタニック」の主題歌« My Heart Will Go On »で知られるように、圧倒的な声量と卓越した歌唱力が評価されている。
しかし、1995年にフランス語で発表した« D’eux »というアルバムでは、ジャン・ジャック・ゴルドマンから楽曲の提供を受け、言葉を大切にした歌い方を心掛けたという。« Pour que tu m’aimes encore »はそうした歌の一つ。

フランス語学習の面からだと、Pour queの後ろの動詞は接続法が来るので、Il faut que tu saches, je veux que tu saches等と共に、接続法を自然に覚えるために訳に立つ。
また、直説法単純未来形も数多く使われ、語尾のRの音が耳に残り、未来形を音で認識できるようになるだろう。

Pour que tu m’aimes encore あなたが私をもう一度愛してくれるように

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フランス人はどんな基準で自分を見ているのか?

現代のフランス人が自分をどのような基準で測っているのかをしるためのアンケートが行われた。
基準はとなるのは、génération, religion, niveau d’études, ville, opinions politiques, centres d’intérêt, quartier, origines, genre, région d’origine, situation de famille, nationalité, couleur de peau, métier.
この中から3つを選択する。
2022年2月2日のQuotidienで、その結果が紹介されていた。

Comment les Français se décrivent-ils ? 
Une enquête sur les Français et la façon dont ils se définissent eux-mêmes : en gros, qui sont-ils ?

Zaz « Je veux » ザズ 「私の欲しいもの」

ザズの« Je veux »に関しては、色々なサイトで試訳が試みられているので、あえてもう一つ付け加える必要もないほどなのだが、ここで取り上げるのには一つの理由がある。

それは、日本人が英語やフランス語の音を習得する時に問題になることを、はっきりと意識させてくれる素材だからである。

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Jacques Brel « Ne me quitte pas » ジャック・ブレル 「行かないで」

フランス語の歌で、世界的に最も知られている曲は、たぶんジャック・ブレル(Jacques Brel)の« Ne me quitte pas »だろう。フランスだけではなく、英語、ドイツ語、イタリア語、アラビア語、ヘブライ語、チェコ語、ポーランド語など、様々な言語で歌われているとフランス語版のWikipediaに書かれている。また、Wikipediaの日本語版にも出てくるし、日本語訳で歌われることもあり、ネット上では対訳が幾つか掲載されてもいる。

« Ne me quitte pas »は、バルバラの« Dis, quand reviendras-tu ? »と同じように、構文が簡単で単語を覚えるのに役に立つ。そこで、文章と単語が自然に頭に残るようにするために、参考につける日本語は、他の歌の場合と同じように、できるかぎりフランス語の構文と対応させていく。

Ne me quitte pas (quitter「別れる、去る、捨てる」tu quittesの命令形はquitte. 語尾のsが取れる。)
ぼくと別れないで(行かないで)

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Barbara « Dis, quand reviendras-tu ? » バルバラ 「いつ戻ってくるの?」

バルバラは、言葉を大切にして語り掛けるように歌った歌手で、« Dis, quand reviendras-tu ?» は今でもフランスで大変に人気がある。

フランス語学習という点から見ると、単純未来形が多く使われ、語尾の« r »の音が自然に耳に残るし、簡単な構文の文が続くため、単語や熟語を覚えるためにも役に立つ。

Dis, quand reviendras-tu ?
ねえ、いつ戻ってくるの?

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ボードレール 白鳥 Baudelaire Le Cygne モデルニテの詩 2/2

第1部では、「古いパリはもはや存在しない。(町の形は/変わってしまう、ああ! 人の心よりももっと早く。)」という確認がなされた後、古いパリの姿が心の中に描き出され、「過去」に対するメランコリックな憧れが強く表出された。

第2部でも、「パリは変わりつつある!」と、時間の経過とともに過去が失われ、全てが変わってしまうという考察が最初に取り上げられる。
しかし、第1部とは違い、「私」の意識は過去に向かうのではなく、現在に留まり続ける。つまり、「私は考えている(Je pense)」という行為そのものに焦点が絞られる。

第1詩節ではその原理が開示され、続く詩節からは具体例が示されていく。

(朗読は1分45秒から)

II

Paris change ! mais rien dans ma mélancolie
N’a bougé ! palais neufs, échafaudages, blocs,
Vieux faubourgs, tout pour moi devient allégorie,
Et mes chers souvenirs sont plus lourds que des rocs.

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ボードレール 白鳥 Baudelaire Le Cygne モデルニテの詩 1/2

シャルル・ボードレール(Charles Baudelaire)の「白鳥(Le Cygne)」について、最も優れたボードレール研究者だったクロード・ピショワは、ボードレールの詩の中で、そしてフランス詩の中で、最も美しいものの一つと断言している。

その詩の書かれた1859年頃、パリは変貌を遂げつつあった。
1850年くらいから古い街並みが壊され、新しい街並みが生まれつつあった。「白鳥」は、そうした変貌を背景にし、まさに変わりつつあるルーブル宮のカルーゼル広場を歩きながら、一羽の白鳥の姿を想い描く。その姿を通して、社会も人間の心も文化も芸術も、全てが新しい時代へと移行していく「今」を捉え、「美」を抽出する。

その変化は、ボードレールの詩においては、19世紀前半のロマン主義的なものから、19世紀後半のモデルニテと呼ばれるものへの移行でもあった。こう言ってよければ、美の源泉が、「ここにないもの(過去、夢、内面、地方、自然など)へのメランコリックな憧れ」から、「今という瞬間=永遠」へと変わっていく。その流れを主導したのが、ボードレールだった。

ここではまず、現在ではルーブル美術館の入り口としてガラスのピラミッドが立てられているカルーゼル広場に関して、変貌前(1846年)と変貌後(1860年)の姿を確認しておこう。

広場の中心あたりにはカルーゼル門が立っていることは変わらない。しかし、1846年にはその奥にごちゃごちゃと立ち並んでいた建物群があるが、1860年の絵画ではきれいに取り払われている。その違いをはっきりと見て取ることができる。

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