ボードレール 「旅」 Baudelaire « Le Voyage » 新しい詩への旅立ち 7/7

Odile Redon, l’Ange des Certitudes et un regard intérrogateur

「旅」の最後に、詩人は「出航しよう!」と呼びかける。つまり、彼はまだ旅立ってはいず、『悪の華』第二版(1861年)の読者である仲間たちを、新たな詩を発見する旅に誘うのである。

VIII

Ô Mort, vieux capitaine, il est temps ! levons l’ancre !
Ce pays nous ennuie, ô Mort ! Appareillons !
Si le ciel et la mer sont noirs comme de l’encre,
Nos cœurs que tu connais sont remplis de rayons !

おお、死よ、年老いた船長よ、時が来た! 錨を上げよう!
この国は退屈だ、おお死よ! 出港しよう!
空も海も真っ黒い、墨のように。
しかし、お前の知る私たちの心は、光に満たされている!

この国を現実世界と考えると、旅立ちは死に他ならない。従って、死に対する呼びかけは、退屈なこの地を離れ、闇の世界へと向かうことを意味する。
その死は決して暗い考えに取り憑かれた結果ではなく、海や空という外部の世界は暗くとも、内面世界は光輝いている。

詩人は、そうした旅の誘いに期待を高まらせ、「・・・しよう!」と感嘆符を繰り返している。
そこには、『悪の華』の読者に対する強い期待が込められている。

William Blake, The Great Red Dragon and the Woman Clothed with Sun

Verse-nous ton poison pour qu’il nous réconforte !
Nous voulons, tant ce feu nous brûle le cerveau,
Plonger au fond du gouffre, Enfer ou Ciel, qu’importe ?
Au fond de l’Inconnu pour trouver du nouveau !

私たちに毒を注げ、私たちを力づけるために!
私たちが望むのは、この炎が私たちの脳髄を燃やす限り、
深淵の底に潜ること、それが地獄であろうと、天国であろうとも?
未知なるものの底で、「新たなもの」を見出すのだ!

毒は死をもたらす。だからこそ、出航を助けてくれる。
そして、心が光で満たされているのと同じように、脳髄が炎で燃えているのであれば、旅立ちは新たなものの発見へとつながる。

向かう先は深淵だが、それが天国なのか、地獄なのかはわからない。とにかく、潜るのだ。
「潜る(plonger)」という表現は、第4部で使われ、その時には「空に潜る」と言われていた。
ここでは潜る先が、地獄なのか、天国なのかと、一応は問われる。しかし、その違いは地上的な視点からの差にすぎない。
第一部に出てきた「思い出の目」から見れば、天国も地獄も、「未知なるもの」にすぎない。

そして、最後に、旅の本当の目的が明かされる。
それは、「新たなもの」を発見すること。

『悪の華』の第二版は、このように、新しい詩の宣言で締めくくられる。


最後にもう一度、詩全体を耳から取り込んでみよう。

すると、驚くべき旅人達の見たものが読者の体験となり、彼等を先導者として旅に出たくなる。
その時には、彼等の体験をそのままなぞるのではなく、読者一人一人が見るものは新たなものとして浮かび上がってくる。それこそが、ボードレールの言う「新たなもの」だ。

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