
19世紀は革命が何度も起こった時代だが、絵画の世界でも、ロマン主義、写実主義、印象派など、新しい流派が次々に誕生した。
そうした新しい絵画を語る時、アカデミーの絵画が刷新を妨げた要素として悪者扱いされる。
そこでつい「型にはまり退屈なアカデミー絵画」などと言われると、鵜呑みにしてしまいがちになる。
ところが、実際の絵画を目にすると、素晴らしいものがある。
オーラス・ヴェルネやポール・ドラロッシュの描くルイーズ・ヴェルネの何枚かは、理想の美を目指し、滑らかな仕上げが求められた伝統的な絵画だが、深く心を打つ。
ルイーズ・ヴェルネは、オラース・ヴェルネの娘であり、1835年にポール・ドラロッシュと結婚した。しかし、彼女は1845年には死んでしまう。その後、ポールは立ち直ることが難しかったと言われている。
二人の描いたルイーズの肖像画には、深い愛が感じられる。夫は題名に「天使の顔」と名付けている。


ポール・ドラロッシュが、死の床に横たわる妻を描いたスケッチと、それを元に1846年に描いた「芸術家の妻、死の床にあるルイーズ・ヴェルネ」は、どれほどの悲しみを胸に描かれたものだろう。


一方、父オラース・ヴェルネも、ルイーズを頭に置きながら、1851年に「死の天使」という作品を仕上げた。

死を司る天使によって昇天する女性。彼女の足元で祈りを捧げる男性。画面全体が敬虔な雰囲気に包まれ、愛の深さを感じさせる。
ポール・ドラロッシュの晩年の作「若き殉教者」。この絵画に関して、ルイーズをモデルにしたとは言われていない。しかし、オフェーリアを思わせるこの場面からは、失われた妻ルイーズへの深い愛を思わずにいられない。

こうした絵画を見ると、アカデミー派の絵画を一括して悪し様に言うことなどできなくなる。