「7.北方の旅」の章では、過去の思い出から離れ、再び散策に話が戻される。そして、私たち読者は、再び、ネルヴァルの作品を読むときの面白さと同時に、難しさにぶつかることになる。
ネルヴァルは「現在」の中に「過去の痕跡」をたどり、「現在」に厚みや生命力を付け加えていく。
「7.北方の旅」では、「現在」の代表として鉄道を取り上げ、鉄道の路線から取り残された小さな村への愛を語ることで、「過去」を甦らせていく。
その際、ネルヴァルは同時代の読者であれば普通に知っている事柄を前提に話を進めるため、知識を持たない人間には理解するのが難しい記述が多く見られる。知らない固有名詞が数多く出てくるし、それらの関係もわからないために、文の理解が難しい。
そんな時にはどうしたらいいのか?
私たちは文章の中に知らない要素があっても、文意自体は掴むことができ、知らない要素がどのようなジャンルに属するものなのか推測できる。
Aで生まれたBは、Cと結婚して、Dに住んでいる。
この文の中で、AとCは人間、BとDは地名だろうということが推測できる。
その路程は、セーヌ河とオワーズ川の気まぐれな河床を順に辿りながら、古い北方街道の坂道を一つ二つ避けただけだった。
セーヌ河は誰でも知っているが、オワーズ川は知らない人の方が多いだろう。北方街道も知られていない。しかし、それらが川であり道であることは理解できる。
最初はそうした漠然とした理解に留まりながらも、ネルヴァルの作品を読み進めていくと、いつの間にか、知らなかったはずの名前、例えば、サン・ジェルマン、サンリス、ポントワーズ、オワーズ川等が愛しいものになってくる。
そうなったら、あなたはもうネルヴァルの立派な読者になっているといえる。











