ペロー童話の面白さ 2/2

ルイ14世の時代の刻印

ペローの物語には、ルイ14世時代の風俗がはめ込まれている。そして、そこには、昔話といえないような生々しさがあり、物語を活気づけている。

「眠れる森の美女」は紡錘に刺されて百年間の眠りにつく。そして百年後王子が彼女を森で発見したとき、目を覚ます。
その際ペローは、流れた歳月が具体的に感じられるように、細かな細工を施している。例えば、美女を守る兵士たちは「旧式の火縄銃(フランス語の原文ではカービン銃)」を持っている。
17世紀の後半にこの銃はすでに使われていなかったということであり、当時の読者であればすぐにピントきたはずである。

時間の経過はさらに、美女の着ていた服で表される。それは高い襟のついたドレスであるが、エリザベス1世の有名な肖像画を思い出すとわかるように、16世紀後半の女性の服だった。
それに対して、17世紀後半には女性のドレスの胸元は大きく開かれ、襟は全くなくなっている。王子はそこで美女が古い時代の服を着ているようだと思うのだが、しかしそれは口に出さないでおく。
このようにして、ペローは実際に100年の時が経ったことを、ドレスの描写を通して読者に感じさせようとしたのである。

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ペロー童話の面白さ 1/2

シャルル・ペロー(1628-1703)は17世紀後半に活躍した文人で、彼らが生きるルイ14世の時代は古代の偉大な時代よりも優れていると主張した。

古代から近代への移行を「進歩」と見なすこうした考えの下、ギリシア・ローマ時代の物語よりフランスに伝わる昔話の方が優れているという説を展開し、昔話集を出版したと考えられている。
こうした理由で生まれたペローの童話集は、児童文学の誕生という観点から見ると、決定的な重要性を持っている。昔話が子どものために語られる話であるという考えが、最初の一歩を踏み出したのである。

ここではペローの物語集を17世紀という時代とは切り離し、児童文学というジャンルに属する作品として、その特質を明らかにしていくことにする。

キャラクター化

ペローが昔話に対して持っている感覚はとても確かなものだった。実際、数限りなくある昔話から彼が取り上げたのはわずか11の物語であるが、そのほとんどが今でもよく知られている。残存率がこれほど高いのは、ペローの物語集をおいて他にないだろう。

「眠れる森の美女」「赤ずきんちゃん」「青ひげ」「サンドリヨン(シンデレラ)」「長靴をはいた猫」「親指小僧」「巻き毛のリケ」「妖精」「ろばの皮」「グリゼリディス」「おろかな願い事」(最後の三つは韻文)。この中で、知らない話は二つか三つだけではないだろうか。

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ペロー 巻き毛のリケ Perrault Riquet à la Houppe 変身を可能にするものは何か? 7/7

普通の昔話であれば、醜いリケが王女の愛によって美しい王子に変身し、物語は終わりを迎える。しかし、ペローは、変身に関してある解釈を付け加える。

 Quelques-uns assurent / que ce ne furent point les charmes de la fée / qui opérèrent, / mais / que l’amour seul / fit cette métamorphose. / Ils disent / que la princesse, / ayant fait réflexion / sur la persévérance de son amant, / sur sa discrétion / et sur toutes les bonnes qualités / de son âme et de son esprit, / ne vit plus la difformité de son corps / ni la laideur de son visage /  ; que sa bosse / ne lui sembla plus / que le bon air d’un homme / qui fait le gros dos, / et qu’au lieu que/ jusqu’alors / elle l’avait vu boiter effroyablement, / elle ne lui trouva plus / qu’un certain air penché / qui la charmait. / Ils disent encore / que ses yeux, / qui étaient louches, / ne lui en parurent / que plus brillants ; / que leur dérèglement passa / dans son esprit / pour la marque d’un violent excès d’amour, / et qu’enfin / son gros nez rouge eut / pour elle / quelque chose de martial / et d’héroïque.

 ある人々は、妖精の魔術が働いたからではなく、ただ愛だけがその変身を可能にしたのだと断言した。彼らの意見では、王女は、愛する人の忍耐強さ、慎重さ、魂やエスプリのあらゆる長所についてよく考えたおかげで、肉体の不格好さや顔の醜さがもはや目に入らなくなったのだった。背中のコブは、誇らしげな男性の品のよい様子にしか思えなかった。それまでひどく足をひいて見えていたが、今では、前屈みになっているようにしか見えず、彼女には魅力的だった。目に関しても、やぶにらみなのだが、輝いているようにしか見えなかった。どこか視線が定まらないころも、彼女の心の中では、激しすぎる愛の証と思われた。大きな赤い鼻も、彼女にとって、雄々しく英雄なものがあった。

「美女と野獣」でも、「かえるの王様」でも、醜い王子は最後に変身する。しかし、ここでは、「ある人々」の意見として、物理的に姿形が変化したわけではない、という解釈が提示される。
「巻き毛のリケ」の斬新さは、まさにこの点にある。

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ペロー 巻き毛のリケ Perrault Riquet à la Houppe 変身を可能にするものは何か? 6/7

エスプリを得た美しい王女は、リケとの結婚の約束をしたのは愚かな時だったので、賢くなった今、約束を実行するのは難しいし、エスプリの塊のようなリケならそれをわかるはずだという論理を展開する。
リケは、その論理を切り崩し、王女に結婚を承諾させないといけない。

では、彼の論理はどのようなものだろう?

— Si un homme sans esprit, / répondit Riquet à la Houppe, / serait bien reçu, / comme vous venez de le dire, / à vous reprocher votre manque de parole, / pourquoi voulez-vous, / Madame, / que je n’en use pas de même / dans une chose / où il y va de tout le bonheur de ma vie ? / Est-il raisonnable / que les personnes / qui ont de l’esprit / soient d’une pire condition / que celles qui n’en ont pas ? / Le pouvez-vous prétendre, / vous / qui en avez tant, / et qui avez tant souhaité / d’en avoir ? / Mais venons au fait, / s’il vous plaît. / A la réserve de ma laideur, / y a-t-il quelque chose / en moi / qui vous déplaise ? / Êtes-vous mal contente / de ma naissance, / de mon esprit, / de mon humeur / et de mes manières ?

「エスプリを持たない人間が」とリケは答えた。「貴女が今おっしゃったことによれば、約束を守らないと貴女を非難したとしても、よい扱いを受けるかもしれません。としたら、私の人生の幸福全体にかかわることに関して、私がエスプリを持たない人間と同じように振る舞わないことを、あなたはどのようにして望まれるのでしょう? エスプリを持っている人間のほうが、それを持たない人間よりも悪い状況にいるというのが、理性的なことでしょうか? 貴女がそんなことを主張できるでしょうか? 貴女は多くのエスプリを持ち、それを持ちたいとあれほど望んだのですから。でも、現実の問題に話を戻しましょう。私の醜さを除いて、貴女の気に入れないことが、私の中にあるのでしょうか? 私の生まれ、エスプリ、気質、振る舞いに、満足できないのでしょうか?」

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ペロー 巻き毛のリケ Perrault Riquet à la Houppe 変身を可能にするものは何か? 5/7

リケとの約束をすっかり忘れていた王女は、地底世界で結婚式が準備されていることを教えられる。その時、彼女はどのような反応をするのだろうか?

 La princesse, / encore plus surprise / qu’elle ne l’avait été, / et se ressouvenant / tout à coup / qu’il y avait un an / qu’à pareil jour / elle avait promis / d’épouser le prince Riquet à la Houppe, / pensa tomber de son haut. / Ce qui faisait / qu’elle ne s’en souvenait pas, / c’est que, / quand elle fit cette promesse, / elle était une bête, / et qu’en prenant le nouvel esprit / que le prince lui avait donné, / elle avait oublié toutes ses sottises.

 王女は、以前びっくりした以上に驚き、一年前の今日、巻き毛のリケと結婚する約束をしたことを突然思い出して、ひっくり返りそうになった。約束したことを覚えていなかったとしたら、それは、約束をした時、彼女は愚かで、王子が彼女に新しいエスプリを与えた後、それ以前の全ての愚かな行いを忘れてしたったからだった。

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ペロー 巻き毛のリケ Perrault Riquet à la Houppe 変身を可能にするものは何か? 4/7

リケからのプロポーズを受け入れることで、王女はエスプリを手に入れ、彼女の会話も洗練されたものとなった。その変化は、宮廷に戻った時、人々をひどく驚かせる。

 Quand elle fut retournée au palais, / toute la cour ne savait / que penser d’un changement / si subit et si extraordinaire : / car, / autant qu’on lui avait ouï dire / d’impertinences / auparavant, / autant lui entendait-on dire / des choses bien sensées / et infiniment spirituelles. / Toute la cour en eut une joie /qui ne se peut imaginer ; il n’y eut que sa cadette / qui n’en fut pas bien aise, / parce que, / n’ayant plus / sur son aînée / l’avantage de l’esprit, / elle ne paraissait plus / auprès d’elle / qu’une Guenon / fort désagréable.

彼女が宮殿に戻ると、宮廷全体が、これほど突然で、これほど驚くべき変化を、どのように考えていいのかわからなかった。なぜなら、人々はこれまで彼女が愚かなことを言うのを数多く聞いてきたのだが、今度はそれと同じ位、とても理に適い、限りなく才知に富んだことを言うのを聞くようになったからだった。そのために、宮廷全体は想像できないほど大喜びした。妹だけがそれを嬉しく思わなかった。というのも、これからは姉に対してエスプリがあるという優位を持たないので、姉のそばにいると、もはや非常に感じの悪い猿にしか見えなかったからだ。

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ペロー 巻き毛のリケ Perrault Riquet à la Houppe 変身を可能にするものは何か? 3/7

リケが姉に逢い、最初に口にしたのは彼女の美しさ。としたら、次に話題にするのは、彼女の2つ目の特色、つまり愚かさということになる。

では、愚かさについて話ながら、彼女に気に入られるためにはどうしたらいいのだろう?

« La beauté, / reprit Riquet à la Houppe, /est un si grand avantage / qu’il doit tenir lieu de tout le reste, / et, quand on le possède, /  je ne vois pas / qu’il y ait rien / qui puisse nous affliger beaucoup.
— J’aimerais mieux, / dit la princesse, / être aussi laide que vous, / et avoir de l’esprit, / que d’avoir de la beauté / comme j’en aies, / et être bête / autant que je le suis.
— Il n’y a rien, / Madame, / qui marque davantage / qu’on a de l’esprit / que de croire n’en pas avoir, / et il est de la nature de ce bien-là / que, / plus on en a, / plus on croit en manquer.
— Je ne sais pas cela, / dit la princesse ; / mais je sais bien / que je suis fort bête, / et c’est de là / que vient le chagrin / qui me tue.

「美しさは」と巻き毛のリケが言った。「大変に大きなアドヴァンテイジなので、他の全てのものの代わりになるに違いありません。人がそのメリットを持っている時には、私たちをひどく苦しめるほんの僅かなことも、あるとは思えません。」
「私にとって好ましいのは」と王女は言った。「あなたと同じように醜くてもいいので、エスプリを持つことです。私が持っているような美しさを持ち、今の私がそうであるように愚かであるよりも、です。」
「人がエスプリを持っていることをしるすものとして、自分がエスプリを持っていないと思うことほど確かなことは何もありません。エスプリを持っていればいるほど、それが欠けていると思うことこそ、エスプリという良きものの性質なのです。」
「私にはそんなことはわかりません。」と王女は言った。「とにかく、自分がひどく愚かだということはわかっています。そのために、ひどく悲しく、死んでしまいたいほどなのです。」

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ペロー 巻き毛のリケ Perrault Riquet à la Houppe 変身を可能にするものは何か? 2/7

リケ王子と2人の王女の属性を確認しておこう。
リケ:外見は醜いが、多くのエスプリを持つ。+ 愛する人にエスプリを与えることができる。
長女:外見は美しいが、エスプリはゼロ。+ 気に入った人を美しくすることができる。
次女:外見は醜いが、多くのエスプリを持つ。

この三人がどのような関係になっていくのだろう?

前回と同様に、文章にスラッシュを入れ、意味の切れ目を示していく。
前から読み、日本語を介さずに意味を理解するコツを習得すると、フランス語をフランス語のままで理解できるようになる。

 A mesure que / ces deux Princesses devinrent grandes, / leurs perfections crûrent aussi avec elles, / et on ne parlait partout / que de la beauté de l’aînée / et de l’esprit de la cadette. / Il est vrai aussi / que leurs défauts augmentèrent beaucoup / avec l’âge. / La cadette enlaidissait / à vue d’œil, / et l’aînée devenait plus stupide / de jour en jour. / Ou / elle ne répondait rien / à ce qu’on lui demandait, / ou / elle disait une sottise. / Elle était avec cela / si maladroite / qu’elle n’eût pu ranger quatre Porcelaines / sur le bord d’une cheminée / sans en casser une, / ni boire un verre d’eau / sans en répandre la moitié / sur ses habits.

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ペロー 巻き毛のリケ Perrault Riquet à la Houppe 変身を可能にするものは何か? 1/7

1697年に発表されたペローの昔話集には、「赤ずきんちゃん」「眠れる森の美女」「シンデレラ」等、後の時代に世界中で親しまれる物語が含まれている。
しかし、全ての物語が知られているわけではなく、「巻き毛のリケ(Riquet à la Houppe)」のように、日本ではほとんど知られていない作品もある。

どんな物語かと思い「巻き毛のリケ」を読んでみると、まず、全く昔話らしくない。子供のための話というよりも、気の利いた短編小説という感じがする。
主人公は愛する女性に結婚してくれるよう説得するのだが、実に理屈っぽい。その上、最後のどんでん返しがおとぎ話的ではなく、現代ならごく当たり前の心持ちによる説明。
現代の読者にとって、面白い話とは思えないかもしれない。

しかし、ルイ14世の宮廷社会が時代背景であることを考えると、この作品が大変に興味深く、読者を楽しませ、かつ学ばせてくれることがわかってくる。
全部で10.000字程度の長さがあるので、何回かに分けて、少しづつ、全文を読んでみよう。

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ラ・フォンテーヌの寓話とペローの昔話

17世紀後半はルイ14世が君臨した時代。当時の文学作品を読んでみたいという人がいたら、真っ先に推薦できる作家がいる。
一人は、ラ・フォンテーヌ。彼は、イソップ寓話を新しい読み物として語り直した。
もう一人は、ペロー。彼は、フランスの民話を取り上げ、王族や貴族の子女に向けて昔話を再話した。

「セミとアリ」「カラスとキツネ」といったイソップ寓話も、「赤ずきんちゃん」「シンデレラ」といった昔話も、私たちはよく知っているし、17世紀の読者にとっても同じことだった。従って、物語られる出来事に目新しいものはないはずである。

では、どこに興味を持って、ラ・フォンテーヌやペローを読めばいいのだろう? 彼らの書いたものを読むことで、何が理解できるのだろうか?

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