ボードレール 「旅」 Baudelaire « Le Voyage » 新しい詩への旅立ち その5

第6部では、詩人の目から見た現実社会の悪が次々に列挙される。

VI
« Ô cerveaux enfantins !  
Pour ne pas oublier la chose capitale,
Nous avons vu partout, et sans l’avoir cherché,
Du haut jusques en bas de l’échelle fatale,
Le spectacle ennuyeux de l’immortel péché

                   おお、子どもたちの脳髄よ!
大切なことを忘れないようにしよう。
私たちは見た、至るところで、それを探さなかったのに、
運命の梯子の上段から下段まで通して、
不死の罪の退屈な光景を。

Albrecht Dürer, Adam et Eve (une partie)

不死の罪(l’immortel péché)とは、人類が罪を犯し続けていることを意味する。
その罪は、社会の上層から下層まで、至るところで犯されるものであり、探す必要もなく、目に飛び込んで来る。

そうした光景を詩人は退屈(ennuyeux)と形容する。
退屈(ennui)は、メランコリー(mélancolie)あるいはスプリーン(spleen)と言ってもいいだろう。
ボードレールの世界では、それらは美へと向かう出発点になる感情である。

ボードレールは、「美は常に奇妙である。」と主張したことを思いだそう。

ボードレール 「旅」 Baudelaire « Le Voyage » 新しい詩への旅立ち その4

第4部では、驚くべき旅行者たちが航海で見た光景が次々に語られていく。

IV
« Nous avons vu des astres
Et des flots ; nous avons vu des sables aussi ;
Et, malgré bien des chocs et d’imprévus désastres,
Nous nous sommes souvent ennuyés, comme ici.

                「私たちは見た、星を、
波を。私たちは見た、砂も。
数多くの衝突と予見できない災難に出会ったのに、
私たちは何度も退屈した。ここでと同じように。

現実は退屈だ。だから、幻影的な国や輝く楽園を目指して旅立つ。
従って、星や波や砂に出会う素晴らしい旅であり、予期しないアクシデントがある旅だとしても、退屈する。

Gustave Courbet, Le Bord de mer à Palavas ou L’Artiste devant la mer
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ボードレール 「旅」 Baudelaire « Le Voyage » 新しい詩への旅立ち その3

第3部には、驚くべき旅行者と私たちという二つの系列の旅行者が現れる。その区別は、すでに旅をした人々と、これから旅を志す人間(私たち)の違いである。

III

Etonnants voyageurs ! quelles nobles histoires
Nous lisons dans vos yeux profonds comme les mers !
Montrez-nous les écrins de vos riches mémoires,
Ces bijoux merveilleux, faits d’astres et d’éthers.

驚くべき旅人たちよ! どんなに高貴な物語を、
私たちは君たちの目の中に読み取ることだろう。海のように深い目の中に!
見せてくれ、君たちの豊かな記憶の宝石箱を、
星と天空のエーテルでできた、素晴らしい宝石を。

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ボードレール 「旅」 Baudelaire « Le Voyage » 新しい詩への旅立ち その2

第二部では、目的のない旅が、現実と理想の狭間にあり、深淵に呑み込まれる危険を含んだものであることが示される。

II

Nous imitons, horreur ! la toupie et la boule
Dans leur valse et leurs bonds ; même dans nos sommeils
La Curiosité nous tourmente et nous roule,
Comme un Ange cruel qui fouette des soleils.

Fernand Léger, Composition à la toupie

私たちは模倣する、なんと恐ろしいことか! 独楽や鞠が
ワルツを踊り、飛び跳ねるのを。夢の中でさえ、
「好奇心」が私たちを苦しめ、転がす、
残酷な天使が、太陽たちをむち打つように。

どこといって向かう先があるわけではなく、ただ出発することだけが目的であるとき、旅はたとえ先に進むように見えても、同じ輪の中を回転しているだけになる。独楽や鞠がその場で回転し、跳ねているように。

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ボードレール 「旅」 Baudelaire « Le Voyage » 新しい詩への旅立ち その1

「旅(Le Voyage)」は、1861年に出版された『悪の華(Les Fleurs du mal)』第二版の最後を飾る詩であり、詩集の最終的な帰結を示している。
ちなみに、最初に発表されたのは、1859年4月10日の『フランス・レヴユー(Revue française)』誌。

4行詩36詩節で構成され、全部で144行。『悪の華』の中で、最も長い詩になっている。

幸いyoutubeには、ファブリス・ルキーニの朗読がアップされているので、(最初は2分20秒くらいから。)、素晴らしい朗読を耳にすることができる。

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詩は世界を美しくする  ネルヴァル ボードレール 村上春樹 ビリー・ホリデー

詩は世界を美しくする。

芸術家、詩人は、自分の世界観(ボードレールの言葉では「気質」tempérament)に従って、作品を生み出す。
私たちは、その作品に触れることで、芸術家の世界観に触れ、感性を磨いたり、彼等のものの見方、感じ方を身につけることができる。

詩においても、そのことを具体的に体験することができる。

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ボードレール 「腐った屍」 Baudelaire « Une Charogne » 奇妙な恋愛詩

ボードレールの「腐った屍(Une Charogne)」は、とても奇妙な恋愛詩。

恋人と二人で道を歩いているとき、一匹の動物の腐った死骸を見る。蛆がたかり、肉体は崩れかけている。
そのおぞましい光景を描きながら、愛の歌にする。

どうしてそんなことが可能なのだろう?

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