ボードレール 月の悲しみ Baudelaire « Tristesses de la lune » 新しいロマン主義?

1857年、『悪の華(Les Fleurs du mal)』を贈られたフロベールはボードレールに礼状を書き、「あなたはロマン主義を若返らせる(rajeunier le romantisme)方法を見つけたのです。」と詩集全体の総括をした。
さらに続けて、好きな詩の題名を幾つか列挙し、その中で、「月の悲しみ(Tristesses de la lune)」を挙げる。そして、そのソネの第1カトラン(四行詩)の3行目と4行目を引用した。

フロベールは、『ボヴァリー夫人』の中で、エンマのロマン主義的な傾向を揶揄しているように見え、ロマン主義の批判者とも受け取れる。しかし、別の視点から見れば、彼もまた「ロマン主義を若返らせる」方法を模索したと考えることもできる。

では、詩人と小説家が同じ方向に歩みを進めていたとしたら、新しいロマン主義とはどのようなものなのだろうか。

同じ礼状の中で、フロベールはボードレールに、螺鈿(damasquinage)にも似た「言語の繊細さ(délicatesses de langage)」が、『悪の華』の「辛辣さ(apreté)」に価値を与えていて、その辛辣さが好きだと伝える。

エンマのロマン主義で批判の対象になるのは、センチメンタリスム。
それに対比されるのは、夢が消えた後の虚しさ、苦々しい想い、不快さ。一言で言えば、「辛辣さ(apreté)」。
とすれば、若返ったロマン主義は、「螺鈿の言葉を彫琢し、辛辣さから美を生み出す」ものと言えるのではないだろうか。

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猫の詩人 シャルル・ボードレール Charles Baudelaire, poète des chats その4 散文詩「時計」 « L’Horloge »

散文詩集『パリの憂鬱』に収められている「時計(L’Horloge)」は、猫の目を見つめて時間を知るというエピソードから、愛する女性の瞳の中で発見される不思議な時間へと展開する詩。
最後に詩人自身によって、それが恋愛詩であると告げられる。

詩人が愛する猫(女性)の中に見つける時間がどのようなもので、その詩がなぜ愛の告白になるのだろうか。

        L’HORLOGE

  Les Chinois voient l’heure dans l’œil des chats.
  Un jour un missionnaire, se promenant dans la banlieue de Nankin, s’aperçut qu’il avait oublié sa montre, et demanda à un petit garçon quelle heure il était.
  Le gamin du céleste Empire hésita d’abord ; puis, se ravisant, il répondit : « Je vais vous le dire ». Peu d’instants après, il reparut, tenant dans ses bras un fort gros chat, et le regardant, comme on dit, dans le blanc des yeux, il affirma sans hésiter : « Il n’est pas encore tout à fait midi. » Ce qui était vrai.

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猫の詩人 シャルル・ボードレール Charles Baudelaire, poète des chats その3 「猫たち」 Les Chats

Eugène Delacroix, Tête de chat

『悪の華(Les Fleurs du mal)』の中に収録された猫を歌った3つの詩の中で、「猫たち(Les Chats)」だけが複数形の題名になっている。
その理由を考えることは、この詩の原理を理解することにつながる。

この詩は、1847年に、『猫のトロ(Le Chat Trott)』というシャンフルリーの小説の中で引用された。
その作品の中で、ボードレールは、とても猫好きな男として描かれている。道にいる猫を手に取ったり、猫が店番している店の中に入っていったり、猫を撫でたり、じっと見つめたりする。
この詩「猫たち」をシャンフルリーがトロに聞かせると、トロは飼い主の女性のところを離れ、ボードレールの膝の上に飛び乗り、詩人を褒めた。そんなエピソードが綴られている。

猫のトロを喜ばせる詩とは、どんな詩だろう。

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猫の詩人 シャルル・ボードレール  Charles Baudelaire, poète des chats その2 「猫」 Le Chat

『悪の華(Les Fleurs du mal)』の51番目に置かれた「猫(Le Chat)」は、愛人だったマリー・ドブランのご機嫌をとるため、ボードレールが彼女の猫を歌った詩だと考えられている。

全体は2つの部分からなり、第1部は6つの四行詩、第2部は4つの四行詩で構成される。
全ての詩句は8音節で、韻は、抱擁韻(ABBA)。非常に軽快で、心地良い詩句が続く。

ボードレールはこの詩の中で、猫の魅力を最大限に歌う。

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猫の詩人 シャルル・ボードレール  Charles Baudelaire, poète des chats その1 「猫」 Le Chat

シャルル・ボードレールは生前に「猫の詩人」と呼ばれたこともあり、『悪の華(Les Fleurs du mal)』の中には、猫という題名を持つ詩が3編収録されている。
また、散文詩集『パリの憂鬱(Le Spleen de Paris)』に収められた「時計(L’Horloge)」でも、猫が歌われている。
「犬と香水瓶(Le Chien et le flacon)」での犬はかなり手荒く扱われているので、ボードレールの好みは猫に偏っていたらしい。

『悪の華』の34番目に出てくる「猫(Le Chat)」は、2つの四行詩と2つの三行詩からなるソネット。
音節の数は、10音節と8音節が交互に続く、かなり珍しい形。

       Le Chat

Viens, mon beau chat, sur mon cœur amoureux;
Retiens les griffes de ta patte,
Et laisse-moi plonger dans tes beaux yeux,
Mêlés de métal et d’agate.

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ボードレール 「異国の香り」 Charles Baudelaire « Parfume exotique » エロースの導き

Paul Gauguin, Jour délicieux

ボードレールの詩の中には、むせかえるような官能性から出発して、非物質的な恍惚感、至福感に至るものがある。
「異国の香り(Parfum exotique)」は、その代表的な作品。
目を閉じ、愛する女性の胸に顔を埋める。すると、彼女の身体の熱と香りが、詩人を異国へと運んでいく。

その異国の島は、後の時代の画家ポール・ゴーギャンの絵画を見ると、私たちにも連想しやすい。

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ボードレール 夕べの諧調 Baudelaire « Harmonie du soir »

Eugène Boudin, Étude de ciel sur le bassin du commerce

「夕べの諧調」は、ボードレールの韻文詩の中で、最も美しく魅力的な詩の一つ。

一つ一つの言葉、言葉と言葉の繋がりが、音の点でも、意味の点でも、円やかなハーモニー(Harmonie)を奏で、私たちを恍惚とした美の世界へと導いてくれる。

詩の形態は、東南アジアのマレー半島で使用されたパントゥーム(pantoum)。一つの詩節から次の詩節へと、同じ詩句が次々に引き継がれ、戻ってくる。同じものの反復は、めまい、眩暈を惹き起こす。

音と意味の繋がりは、韻によって明確に示される。
女性韻 ige に関連する言葉は、揺れと固定、めまいとその跡を意味する。
男性韻 oirに関連する言葉は、宗教的な雰囲気をかき立てる。

女性韻:tige(枝)、vertige(めまい)、afflige(苦しめる)、se fige(固まる)、vestige(跡)。

男性韻:encensoir(振り香炉)、soir(夕べ)、reposoir(祭壇), noir(黒), ostensoir(聖体顕示台)。

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ボードレール 「通り過ぎた女(ひと)へ」 Baudelaire « À une passante » 儚さと永遠と

「通り過ぎた女(ひと)へ」の中で、詩人は、雑踏の中ですれ違った女性を思い返し、もう二度と会うことはないであろう彼女に向けて呼びかける。

Constantin Guys, Vanité

その女性が象徴するのは、一瞬のうちに通り過ぎる、儚く、束の間の美。一瞬の雷光。

同時に、その美は心の中に刻まれ、決して消えることはない。それは、永遠に留まる神秘的な美。

こうした、一瞬で消え去りながら、同時に永遠に留まるという美の二重性を、ボードレールはモデルニテ(現代性)の美と呼び、その典型をコンスタンタン・ギースの絵画に見出した。

「通り過ぎた女(ひと)へ」は、モデルニテ美学のエンブレムとなる、十四行のソネット。

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ボードレール 「旅への誘い」 Baudelaire « L’invitation au voyage » その3 散文詩(2/2)

Pieter Janssens Elinga, Interior with Painter, Woman Reading and Maid Sweeping

第6詩節では、室内の様子が絵画的に描きだされる。
ワルツへの招待に倣って言えば、絵画への招待。

 Sur des panneaux luisants, ou sur des cuirs dorés et d’une richesse sombre, vivent discrètement des peintures béates, calmes et profondes, comme les âmes des artistes qui les créèrent. (以下録音の続き)Les soleils couchants, qui colorent si richement la salle à manger ou le salon, sont tamisés par de belles étoffes ou par ces hautes fenêtres ouvragées que le plomb divise en nombreux compartiments. Les meubles sont vastes, curieux, bizarres, armés de serrures et de secrets comme des âmes raffinées. Les miroirs, les métaux, les étoffes, l’orfèvrerie et la faïence y jouent pour les yeux une symphonie muette et mystérieuse ; et de toutes choses, de tous les coins, des fissures des tiroirs et des plis des étoffes s’échappe un parfum singulier, un revenez-y de Sumatra, qui est comme l’âme de l’appartement.

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ボードレール 「旅への誘い」 Baudelaire « L’invitation au voyage » その2 散文詩(1/2)

韻文詩「旅への誘い」を、ボードレールはなぜ散文で書き直したのだろうか?

伝統的な考えでは、詩とは韻文で書くものと決まっていた。
韻を踏み、一行の詩句の音節数詩句の音節数が一定であることが、詩と見做される条件だった。

そして、散文は、詩との関係で言うと、韻文を書く前に構想を書き留めるものくらいに考えられていた。

そうした伝統に対して、ボードレールは、韻文で書かれた詩とほぼ同じ内容を散文にし、その散文を詩として成立せようという大胆なチャレンジに挑んだ。
言い換えると、散文詩というジャンルを新たなジャンルを確立することが目標だといえる。

散文詩「旅への誘い」を通して、散文詩とはどのようなものなのか見ていこう。

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