「6.エロイーズ」では、青春時代を振り返り、恋愛を通してネルヴァルが詩人となっていく過程が物語られる。
その際、20歳位の時(1828年頃)に雑誌に発表したトマス・ムーアの詩の翻訳(実際には様々な詩の断片をつなぎ合わせた翻案とも言える詩)を引用している。
その詩は、「過ぎ去る時間」に基づき、今のあなたの美も時間とともに衰えるのが定めであり、だからこそ今という時を十分に生き、私を愛して欲しい、という内容を歌っている。その点で、16世紀フランスの詩人ロンサールの詩 「愛しい人よ、さあ、バラを見に行こう」などと似た内容を持つ。
また、章の題名になっているエロイーズに関しては、愛する女性を女王に見立て、その足元に身を投げ出すというエピソードを通して、手の届かない対象に憧れるプラトニスム的な恋愛観をうかがい知ることができる。
「6.エロイーズ」
私の入っていた寄宿舎の近くには、刺繍を仕事にする若い娘たちが住んでいた。その中の一人はラ・クレオールという名前で、私が初めて書いた恋愛詩の相手だった。よく整った目、とても穏やかなギリシア的横顔、私にはそれらが、冷たく厳めしい勉強の慰めとなった。彼女のために、私は、ローマの詩人ホラティウスの詩「ティンダリスに」を韻文で翻訳した。イギリスの詩人バイロンの恋愛詩のリフレインは、こんな風に訳した。
言っておくれ、アテネの乙女よ、
なぜお前はぼくの心を奪ったのか!








