SNSからマスメディアへの情報拡散 — 大谷選手が熊本地震など3カ国の被災地へ100万ドル超えの寄付(?) — コタツ記事

大谷選手が熊本に20億円を寄付したという、出所不明でフェイクニュースと思われる情報が拡散したことについては、このブログですでに扱った。
「大谷選手ら熊本に20億円を寄付」と福岡県議会の高額海外視察 ―― 感情の消費から問題解決へ

その後、MLBアナリストのベン・バーランダー氏が14日(日本時間15日)、YouTubeとXで、大谷選手が、熊本地震を含む世界3カ所の災害への支援として、100万ドル(約1億6000万円)を超える金額を寄付していると聞いていると発信した。

I’m being told that once again Shohei Ohtani is stepping up for people and causes in need and is donating well over 7 figures to different organizations listed below:
– Venezuela Earthquake relief
– Canadian Wildfire relief
– Kumamoto Earthquake relief
All of his donations are going directly to those in need.
Incredible generosity from an incredible human being.

そして、前回の「20億円」情報とは異なり、今回は知名度のあるアナリストから発信された情報だったため、いくつかのスポーツメディア(日刊スポーツ、スポニチ、THE DIGESTなど)がバーランダー氏の情報を取り上げた。それらの報道は、バーランダー氏がそう伝えたという事実を報じたものではあるが、読者には、そこに書かれた寄付が実際に行われたかのように受け取られる可能性がある。

このことは、メディアとSNSの相互増幅を考える上で、重要なヒントを与えてくれる。

まず、バーランダー氏が「I’m being told that ….」と書いていることに注目しよう。

彼は、情報源から直接確認したとは述べておらず、「そう聞いている」というに過ぎない。彼が何らかの情報源から聞いたことを伝えていることを示しているが、その情報源が誰なのか、また、その情報源がどのように事実を確認したのかは明らかにされていない。

確かに、バーランダー氏は、MLBの専門家として広く知られており、大谷選手についても継続的に取材・発信している。そのため、彼が発信する情報には信頼性があると考えるのは自然なことである。
しかし、「バーランダー氏だから信用できる」ということと、「バーランダー氏が一次情報を確認した」ということは、まったく別の問題である。

現時点では大谷選手本人、所属事務所、ロサンゼルス・ドジャースのいずれからも、この寄付に関する公式発表(プレスリリース等)は出ていない。したがって、「大谷選手が熊本地震を含む3地域の被災地支援に寄付した」という情報は、20億円の情報よりも事実である可能性は高いと考えられるが、「確実な一次情報によって確認済み」とまでは言えない。

ところが、ここにマスメディアが加わると、情報の見え方が変わってくる。
SNS上では、「バーランダー氏が、大谷選手が寄付したと聞いていると発信した」という情報だったものが、メディアによって、「MLBアナリストのベン・バーランダー氏が、大谷選手の寄付について報じた」という形で紹介される。

このとき、「MLBアナリスト」という肩書きが付くことで、情報には専門家としての権威が加わる。そして、「報じた」という表現によって、あたかもバーランダー氏自身が確認した情報をニュースとして伝えているかのような印象が生まれる。さらに、その記事を読んだ人がSNSで「大谷選手が1億6000万円以上を寄付した」と紹介すれば、今度はメディアの記事が新たな情報源になる。

だからこそ、情報を伝えるメディアも、自ら一次情報を確認した上で報道する必要があるのだが、今回はMLBアナリストのベン・バーランダー氏という権威に依存してしまい、情報の確認をしないまま報道してしまったと思われる。

「スポニチ」の記事では、後半に、「大谷は昨年、未来を担う子供たちと動物への支援を目的とした財団『SHOHEI OHTANI FAMILY FOUNDATION(大谷翔平ファミリー財団)』を設立」という一節が付け加えられている。しかし、その財団に今回の寄付について確認したという記述はない。https://news.yahoo.co.jp/articles/96be13a8d78f024b0684f26e9426bcac83d9faf5

他方、「The DIGEST」の記事では、フェイクニュースでしばしば使われる「本人は隠している」といった趣旨の表現が付け加えられている。

「大谷が非常に謙虚で、自らの善行を公に語りたがらない性格であることにも言及。『彼が自ら「僕はこんなことをやっています」と公表することは決してないでしょう。だからこそ、私がこの情報を聞いて、皆さんに伝えることが重要だと感じたのです』と、緊急でYouTubeを配信し、情報を公開した理由を説明した。」
https://thedigestweb.com/baseball/detail/id%3D118779?mobileapp=1

これは、少なくとも結果として、情報源の確認を不要にしてしまう表現になっている。本人が公表しないのだから、第三者による確認が必要ないという論理になってしまうからである。


今回の「大谷100万ドル寄付」の情報は、発信元がベン・バーランダー氏と特定され、しかも、その人物が大谷選手について継続的に取材・発信してきたアナリストであるため、一定の信頼性があると考えることはできるのかもしれない。大谷20億円情報とは違い、日本のマスメディアがこの情報を取り上げたのも、そのためだろう。

しかし、バーランダー氏は「情報の発信者」ではあるが、「一次情報の情報源」ではない。したがって、情報そのものの真実性は確認できていない。大谷選手本人や代理人による発表はなく、寄付額や各団体への配分も明確ではなく、寄付を受けた団体による確認もない。

そうした未確認情報を、SNS上の情報と同じようにマスメディアが流してしまうところに、現代社会における情報伝達の信頼性をめぐる問題が潜んでいる。


こうしたニュースを受け取る読者や視聴者に求められているのは、「20億円」という情報に「さすが大谷」と賞賛したり、3地域に約1億6000万円を寄付したという情報に「大谷は寄付を隠していて謙虚だ」と褒め称えたりすることではない。
最初の情報がフェイクニュースではないかと疑われたのであれば、二番目のニュースについても、情報元が明示されているかだけでなく、その情報元が一次情報なのか、誰によって事実確認がなされているのかを確認することが求められる。

そうすることで、現代社会がフェイクニュースに振り回される現状を、少しずつ改善していくことができるだろう。


SNSからマスメディアへという情報の流れは、「コタツ記事」と呼ばれる形でも、広く行われている。

「コタツ記事」とは、新聞や雑誌、ウェブメディアなどの記者が、取材対象者に直接取材したり、独自の検証を行ったりすることなく、SNSやテレビ番組などですでに発信された情報をもとに記事を作成することを指す。

テレビのワイドショーなどでは、必ずしも専門知識を持たない一方で、何らかの分野で名前を知られた人々が、コメンテーターとして、さまざまな話題について「個人の意見」を述べる。海外でも、もちろん有名人が社会的な問題について意見を表明することはある。しかし、日本のワイドショーなどでは、専門性よりも親しみやすさや「視聴者目線」が重視され、専門的な知識を持たないコメンテーターの発言が、専門家の見解と同じようにニュース空間で流通する傾向がある。この点に、日本のメディアの特徴を見ることができる。

繰り返しになるが、そこにはオピニオン(意見)はあっても、事実確認や一次情報へのアプローチといった作業が十分に行われているとは限らない。

重要なのは、こうした情報の流れが、現代社会では日常的に生じていることを認識することである。

SNSで誰かが発信する → それを別の誰かが取り上げる → メディアが記事にする → テレビで紹介される → その記事や番組を見た人が、再びSNSで拡散する

この循環の中で、もともとは「誰かがそう言っている」というだけだった情報が、何度も繰り返されることによって、いつの間にか「事実」として受け取られてしまうことがある。

したがって、事実に基づいて物事を判断するためには、個々の情報の内容だけでなく、その情報がどこから来て、誰によって確認され、どのような経路を通って自分のところまで届いたのかを意識することが必要になる。

現代社会が、こうした情報の循環と増幅の中にあることを認識すること。それは、事実に基づいて物事を判断するために、必要不可欠な前提なのである。


もう一度、「大谷100万ドル寄付」の記事に戻ってみよう。

バーランダー氏の「I’m being told that…」という発信は、まさにこの情報循環の出発点になり得るものだった。

マスメディアの記者は、その情報の真実性を自ら確認することなく、「MLBアナリストのベン・バーランダー氏が発信した」という事実を伝える。すると、「MLBアナリスト」という肩書きと「マスメディアが報じた」という事実によって、もともとは「I’m being told that…」という伝聞に過ぎなかった情報が権威付けされ、読者には、あたかも確認済みの事実であるかのように受け取られる可能性が生じる。しかし、実際には、「大谷選手が100万ドルを超える寄付をした」という事実そのものが確認されたわけではない。

ここには、現代の情報流通における重要な問題がある。

SNSはしばしば、既存のマスメディアを「信用できない」と批判し、反マスメディアの姿勢を取る。しかし、実際には、SNSとマスメディアは必ずしも対立関係にあるわけではない。SNS上で発信された情報をマスメディアが記事にし、その記事を今度はSNSが取り上げ、さらに拡散するという、相互補完的な関係が成立しているのである。

つまり、SNSとマスメディアは、互いに批判し合いながらも、情報の流通という点では、むしろ互いを利用し、情報を増幅し合っている。「大谷100万ドル寄付」の事例は、その構造を非常によく示していると言えるだろう。

コメントを残す