
ロマンス詐欺・投資詐欺・霊感商法系の詐欺・架空請求詐欺といった各種の詐欺と、フェイクニュースやインフルエンサーを一列に並べると、一方は犯罪であり、他方は犯罪ではない活動であるため、同列に置くのは間違っていると思われるかもしれない。もちろん、健全な情報発信を行っているインフルエンサーも多く、これらを悪質性において同等とみなすわけではない。しかし、インターネットという仮想空間において、「感情を揺さぶり、受け手に情報を信じさせることで成立する経済活動」という点に注目すると、共通する情報伝達の仕組みが見えてくる。
そこでの「情報操作の基本文法」は、強い刺激によって感情を動かし、情報の真偽を検証するプロセスを省略させる心理状態を作り出すことである。そして、その結果として、情報の発信者と受信者の間に「閉じた仮想空間」が形成される。
その仮想空間の中で、発信者は、受信者が「真実性の錯覚」に陥るように導く。受信者は、心理的に外部からの情報を遮断し、発信者から与えられた情報以外を受け入れにくい状態に置かれる。
その空間は、あくまでもネット上の「仮想」でありながら、ネットの向こう側では「現実」とつながっている。そのため、発信者が利益を得る一方で、情報に動かされた受信者が、金銭を失ったり、犯罪に巻き込まれたりする事態に陥ることもある。
情報操作の基本文法を理解しておくことは、「真実性の錯覚」に導かれることを避けるための、有効な防衛策となるはずである。
(1)インフルエンサー
インフルエンサーの第一歩は、刺激の強い映像や言葉によって、認知度を高めることだといえる。インフルエンサーが、インフルエンス、つまり他者に影響を与えるための最初にして最大の手段は、フォロワー数・再生回数・「共感の声」の数だ。
その数の多さが、専門的な知識や科学的な実験結果なしに、あるいは実証的な根拠に反してさえ、信頼性の根拠となる。「これだけ多くの人が支持しているのだから、この人の言っていることは正しいはずだ」「この人が言うなら大丈夫だ」という保証として作用するのである。
しかも、その多数性が真実性の保証であるかのように作用する一方で、受信者には、むしろ自分個人に向けられた情報であるかのような印象が生まれる。日常的な接触を繰り返すうちに、顔が見え、日常を共有しているような感覚が形成されるからである。受信者は、一方的な関係であるにもかかわらず、「自分に向けて」情報が与えられているような印象を抱き、インフルエンサーに友人のような親密さを感じるようになる。
そのような関係性が成立すると、受信者は、発信される情報の一つ一つについて事実性を検証することをしなくなる。情報の真偽ではなく、発信者に対する「印象」によって判断を済ませてしまう。論理的に考え、物事を検証して判断することは面倒であり、最初からすっと納得できるものをそのまま受け入れるほうが、楽であり、気持ちもよい。これは、ごく一般的な認知のあり方だといえる。
さらに、インフルエンサーから発信される情報は、冗長な説明を省き、結論が一気に示されることが多い。しかも、その表現には強い刺激が加えられる。その結果、情報は記憶にも定着しやすくなり、受信者の心や頭の中に刻み込まれる。そして、いつしか、自分が以前から考えていたことや望んでいたことを、インフルエンサーが代わりに実現してくれているような感覚さえ生まれてくる。
時には、インフルエンサーの発信する情報が、一般的に認められている知識と反することもある。その際には、科学的に実証された知識や既存の権威とは異なる「本当の知識」をインフルエンサーが教えてくれるという感覚が生まれる。そして、「エスタブリッシュメント」への不信が、逆にインフルエンサーへの信頼を強めることにつながる。
以上のことをまとめると、インフルエンサーの影響力を支える最も重要な要素の一つは、フォロワー数や再生回数といった「数」である。その「数」が、あたかも情報の真実性を保証するかのように作用する。
そして、その保証が受信者の信頼へとつながり、情報を検証することなく受け入れるようになる。
さらに、日常的な接触によって擬似的な友人関係が形成され、発信者と受信者の間に閉じた空間が成立する。
その結果、受信者は容易にインフルエンサーの影響を受け、やがて現実生活の中で、「この人が言うなら大丈夫」という判断に基づいて、実際の行動に移すようになる。
(2)フェイクニュース
一度フェイクニュースの罠にはまってしまうと、普通であれば考えられないような嘘やデマまで信じるようになってしまう。なぜ事実を検証しないのかと不思議に思うのだが、騙されても騙されても、フェイクニュースを信じ、さらにはそれを楽しむようになる。そこへ受信者を誘い込むシステムは、インフルエンサーの仕掛けとかなり似ている。
ただし、同じ情報操作の基本文法に則りながらも、二つのシステムには違いが見られる。その違いは、インフルエンサーに影響を受ける人々と、フェイクニュースにはまる人々を観察すると見えてくる。
フェイクニュースにはまる人々の中には、自分のことを「物知り」だと思っている人が少なくない。知らないことを恥だと感じ、知っていることが自分のアイデンティティやプライドを支えているといってもいいかもしれない。
ところが、彼らが信じるフェイクニュースは、しばしば単純な物語として構成されている。それが刺激的なタイトルや映像によって提示されることで、強い印象を与える。悪は悪として断罪すべきであり、その背景にある複雑な状況や、複数の要因は考慮に入れられない。
科学的な検証には、時間と知識、そして批判的思考が必要である。それらは時間がかかり、面倒でもある。それよりも、感情的に受け入れやすい単純な物語のほうが好まれる。
また、「マスコミは真実を隠している」「マスコミは嘘をついている」といった言説によって、自分たちだけが知る真実があると確信するようになる。そして、「実はこうなんだ」という表現をしばしば用い、荒唐無稽な情報でさえ事実として拡散していく。
こうした状況を見ると、一部の受信者には、ダニング=クルーガー効果として知られる認知バイアスと類似した現象が生じているようにも見える。
自分の知識や能力を客観的に評価するための知識や技能が不足していると、自分の理解の不備や矛盾を自分自身で認識することが難しくなる。その結果、YouTubeの噂話や過激なフェイクニュースから得た断片的な知識であっても、それを不十分なものとして認識できず、「自分は誰も知らない裏の真実、つまり特別な知識を知っている物知りだ」という強い確信を抱いてしまうことがある。
その結果、フェイクニュースを信じ続ける、次のような循環が生まれる。
自分は物知りだ
↓
ネットで、アルゴリズムによって送り続けられる大量の断片的な情報を得る
↓
フェイクニュースも知識として蓄積する
↓
マスコミは嘘をつくと思っているので、訂正を受け入れない
↓
YouTubeやSNSの情報を「隠された真実」と考える
↓
「自分は世間の人が知らないことを知っている」という感覚が強くなる
↓
さらにネット上の情報を信じる
こうして形成される「隠された真実」を共有する集団では、「自分たちだけが知っている真実」がアイデンティティとなり、プライドとなる。そのため、その情報がフェイクであると指摘されると、自分自身が否定されたように感じ、攻撃性を発揮することにもつながる。
インフルエンサー現象とフェイクニュースは、「本来必要な実証的手続きを、心理的なショートカットによって代替させる」という同じ文法に基づいている。
その文法に従いながらも、インフルエンサーの場合には、「数」→「信頼」→「擬似的な親密さ」という流れになるのに対して、フェイクニュースの場合には、「物知りでありたい」→「断片的な情報を知識として蓄積」→「隠された真実を知っているという感覚」→「アイデンティティ化」→「さらに情報を求める」という循環になっている。
そして、フェイクニュースでは、直接的な購買や政治運動に導くことだけを目的とするのではなく、受信者の「自分は物知りだ」という欲求や、知らないことへの不安を刺激することで、購読者数や再生回数を増加させ、プラットフォームから広告収益などを得るシステムが成立しているといえる。
(3)各種の詐偽
最初に記したように、インフルエンサーやフェイクニュースは、それ自体が犯罪行為ではない。その点では、各種の詐欺と同一に論じるべきではないと考えられるかもしれない。ただし、受信者を仮想空間の中に取り込み、「真実性の錯覚」に導くことで、「現実の検証」に向かわせないという意味では、同種の文法が使われている。そこで、ここでは「情報操作の基本文法」の一例として、考察の対象にする。
ネットを使って行われる詐欺行為には、ロマンス詐欺、投資詐欺、霊感商法系の詐欺、架空請求詐欺など、さまざまなものがある。それらに共通する基本的な要素は、「孤立化」である。「あなただけ」という仮想空間の中に受信者を閉じ込めることで、他者との接触を遮断し、事実を確認する動きを妨げ、現実の中での行動へと強く誘導していく。
その際、強い刺激によって受信者を心理的な麻痺状態に追い込むという点では共通性があるが、他方で、詐欺の種類によって、ある程度の時間をかけて徐々に進行するものと、短時間のうちに一気に行動へと追い込むものがあり、時間性の違いも見られる。
時間性の短いものの典型は、架空請求詐欺である。
裁判所、弁護士事務所、消費生活センター、大手企業銀行などの名称や書式を模倣することで情報を信用させると同時に、未払いや手続きの不備といった違反や過誤を警告することによって、受信者の中に驚きや不安を掻き立て、パニックに陥れる。その点では、オレオレ詐欺と近いといえる。
そこでポイントとなるのは、短時間での決着である。「本日中に連絡がない場合、法的措置に移行します」といった期限設定により、短時間のうちに振り込みなどの行動を促す。時間をかければ、他の人々に相談する余裕が生まれ、詐欺が発覚する可能性が高くなるからである。
アダルトサイトの利用料などを騙る場合には、「恥」の感情が他者への相談を妨げ、「孤立化」することで、「真実性の錯覚」の中に留められる可能性が高い。
こうした詐偽は、次のようなプロセスで進行する。
刺激・恐怖・恥
↓
他者への相談をためらう
↓
孤立化
↓
現実による検証ができない
↓
「真実性の錯覚」が維持される
↓
行動する
次に、時間性の長い詐欺を見ていこう。
a. ロマンス詐欺
最初のアプローチから始まり、徐々に親近感を抱かせるように仕向け、最終的に恋愛感情を抱かせていく。そのプロセスにはある程度の時間がかかるが、たとえ一度も会ったことのない相手であっても、いったん仮想空間の中で恋愛関係が成立しているという錯覚に陥ると、相手の要求に応え、相手を援助することに心理的な抵抗を感じなくなっていく。その結果、金銭の要求にも応じてしまうことになる。
その状態にいる間は、フェイクニュースを盲信している状態とも共通している。他者からの忠告は、自分が信じている世界や、自分自身のアイデンティティ、プライドを壊すものとして受け止められ、かえって反発を強めることになる。そして、外部からの情報を遮断することで、「真実性の錯覚」の中に閉じこもることになる。
b. 投資詐欺
投資詐偽の場合には、金銭的な欲望と同時に、一発逆転によって日々の不満を晴らしたいという思いが、強い刺激となる。そこにつけ込み、暗号資産や外国為替などへの「投資話」に誘導し、段階的に多額の金銭を騙し取っていく。
受信者を信用させるための権威として提示されるのは、投資の専門家や、億単位の利益を得た実践者を称する人物であり、いわば成功体験のモデルである。そして、普通では知り得ない情報を伝えるという伝達様式は、「マスメディアは信用できないが、SNSでは隠れた真実が伝えられている」というフェイクニュースの手法と共通している。
ここでも、「真実性の錯覚」の中に受信者を陥れることで、提示された権威の真実性を確認するプロセスが省略される。そして、「投資すれば必ず利益を得られる」という単純な物語を盲信し、最初は少額から始めたとしても、徐々により多額の資金を投じるように導かれていく。
c. 霊感商法系の詐欺
霊感商法系の詐欺は、受信者の不安や恐れといった感情を利用し、「霊的権威」や「特別な能力」を権威として提示する点に特徴がある。
そうした霊的能力は、科学的に検証することができない。その意味では、インフルエンサーの権威となるフォロワー数と、ある意味で同類のものともいえる。そのように考えると、インフルエンサーも、ある意味では宗教の教祖のような存在として捉えることができる。
その上で、霊感商法系の詐欺では、呪いや運命といった検証不可能な領域を対象とし、実証的に反証すること自体を困難にしている。そのため、インフルエンサーによる実質的な影響以上に、「真実性の錯覚」に深く陥る可能性がある。
その結果、時間や感情、そして金銭を投じ始めると、「ここまで信じてきたのだから、間違いのはずがない」という感情が次第に強くなっていく。そして、他者からの忠告や、自分の中に多少なりとも芽生えたかもしれない疑いの気持ちを無視し、「一度信じた情報を撤回しない」という心理状態に置かれることになる。
。。。。。
このように、「ロマンス詐欺」「投資詐欺」「霊感商法系の詐欺」など、ある程度の時間を前提とした詐欺の場合、それまでに費やしてきた時間や注いできた愛情、資金を無駄にしてしまうのはもったいないという気持ちから、事実に基づいた理性的な判断が妨げられる「サンクコスト・エフェクト」(埋没費用効果)が働くことが多い。
しかし、それは単に、これまで費やしたものを「取り戻したい」という心理だけではない。「真実性の錯覚」が強く作用することで、その錯覚そのものが自分のアイデンティティとして確立されてしまうため、そこから抜け出すことが自己否定につながるという心理的な問題もあると考えられる。
そう考えると、詐欺に陥った人が、外部から証拠を示されても簡単には信じない理由もわかってくる。単に「騙されていることを知らない」のではない。そこにあるのは、「騙されていたと認めること自体が、自分の過去の判断、感情、投資、さらには自己像を否定することになる」という、自己認識の問題である。
ちなみに、この心理状態は、フェイクニュースやインフルエンサーの支持者にも見られるが、とりわけ陰謀論を信じる人々には、「悪」を退治することで自分たちの正義感を満足させようとする人々の心理状態とも重なる部分がある。「真実性の錯覚」から覚めることは、それまで信じてきたものだけでなく、それを信じてきた自分自身を否定することにつながるからである。
ここまで、インフルエンサー、フェイクニュース、各種の詐欺について検討してきたが、最後に「情報操作の基本文法」を簡単に図示しておこう。
強い刺激で感情を動かし、注意を引く
↓
情報を記憶に留めさせる
↓
「真実性の錯覚」を作り出す
↓
「錯覚された真実」を自己のアイデンティティと結びつけ、孤立化させる、あるいは「同質のグループ」の中に閉じ込める
↓
「事実の検証」を省略、あるいは拒否させる
↓
現実の行動に導く

このようにして、情報の受信者をネット上の仮想空間から現実の行動へと誘導することで、発信者の側に経済的な利益がもたらされるシステムが成立しているのである。
現代社会において、ネット上には一つの「仮想現実」が形成され、それが「生(なま)の現実」の上に重なり合い、すでに一つの現実となっている。つまり、これまで「仮想現実」と呼んできたものは、もはや単なる仮想ではなく、「現代の現実」と考えたほうがよい時代になっている。
したがって、その「現代の現実」における「情報操作の基本文法」を理解することは、「今」という時代を知ることでもある。そして、そこで流通するニセ情報に騙されることなく、各種の詐欺から身を守ることにも直結する。いまや「情報操作の基本文法」は、現代社会を生きるための必修科目だといってもいい。