(3)「他者」は敵?

一般的に、昔話や童話では、主人公が勧善懲悪の物語を通して悪を退治し、最後には幸せな結末を迎える。しかし、芥川版「桃太郎」では、鬼征伐を終えた桃太郎に、必ずしも幸福な結末が待っているわけではない。生き残った鬼たちによる攻撃に悩まされ続けることになるのだ。この不思議な結末から、私たちは何を読み取ることができるだろうか。
そのヒントとなるのが、鬼の母が孫たちに語り聞かせる言葉である。
「お前たちも悪戯(いたずら)をすると、人間の島へやってしまうよ。人間の島へやられた鬼はあの昔の酒顛童子(しゅてんどうじ)のように、きっと殺されてしまうのだからね。え、人間というものかい? 人間というものは角(つの)の生(は)えない、生白(なまじろ)い顔や手足をした、何ともいわれず気味の悪いものだよ。おまけにまた人間の女と来た日には、その生白い顔や手足へ一面に鉛(なまり)の粉(こ)をなすっているのだよ。それだけならばまだ好(い)いのだがね。男でも女でも同じように、うそはいうし、欲は深いし、焼餅(やきもち)は焼くし、己惚(うぬぼれ)は強いし、仲間同志殺し合うし、火はつけるし、泥棒(どろぼう)はするし、手のつけようのない毛だものなのだよ……」(芥川龍之介「桃太郎」)
鬼にとって人間とは、見た目が気味悪いだけでなく、野獣のように野蛮な存在なのだ。だからこそ、「人間の島へやってしまう」という脅し文句は、子供たちにとって最も恐ろしい罰を意味することになる。人間が恐ろしい生き物であるという認識は、鬼の島では常識だったに違いない。
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